クロス・レガシー

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Scene.28 ―「継がれた欠片たち」

──ねぇ、あのとき、ほんとうに、わたしはここにいたのかな。 風が、そっと吹いてた。 焼け焦げたものの匂いと、もう誰にも呼ばれなくなった時間のかけらたちが、空気のすき間に溶けて、静かに舞っていた。 遠くで、何かが崩れるような音がして、それはす...
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Scene.27 ―「たしかなものなど、なかったけれど」

──風が、吹いた。 それは、たしかに“誰か”の歩みが残した痕跡だった。無数の声と祈りが溶け込んだ、まだ名もない未来への息吹。 仮設施設の壁を撫でていく風は、どこか懐かしい音を孕んでいた。埃に混じった金属の匂い。遠くの空で反響するかすかな機械...
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Scene.26 ―「残響するものは、何ひとつとして無駄ではなかった」

その部屋は、もう誰も使っていなかった。 空気はわずかに乾き、微細な塵が光の束をゆるやかに漂っていた。古びた配線は壁を這い、断線した神経ケーブルが垂れ下がっている。液晶の割れたホロモニターの表面には、ひび割れた映像が一度だけ点滅して沈黙した。...
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Scene.25 ―「未来という名の、まぼろしだった」

──風が、通りすぎた。 ……その風は、もはや熱も匂いも、誰にも届けようとはしていなかった。  乾いた瓦礫の上をなぞるように、細かく砕けた粒子を巻き上げては、ただ世界の記憶を遠ざけていく。──何もかもが過ぎ去ったあとの空気だった。 崩れかけた...
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Scene.24 ―「名前を拒む者たち」

──風が吹いた。 砕けた骨飾りが、音もなく揺れる。 砂混じりの風が、瓦礫の隙間に落ちた記憶のかけらを撫でていった。風は、焦げた鉄と血のような匂いを運んでいた。その中に、かすかに木の焼けた香りが混じる。骨飾りが燃えた時間の断片。戦いの記憶が、...
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Scene.23 ―「観測断片:Δ.H∞.pre」

──かすかに、風が吹いた。 それは、言葉にも名にもならない“気配”と共に。 誰もいないはずの空間に、揺れる気配がひとつ。 微かな金属音が、擦れるように耳の奥を震わせた。──かつて誰かが残した、名もない痕跡のように。 音の残滓のなかに、彼女は...
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Scene.22a ―「観測不能の果てで、記録は終わる」

【LOG–Δ.H3 : OBSERVATION TERMINATED】【記録者:MIRA・MALIK】【分類:私的観測ログ(封鎖領域/再解析不能)】【警告:観測記録に“私的感情”の混入が検出されました】 それでも、記録しなければならないと思...
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Scene.22 ―「未来は、まだ終わらない」

【<REFLOG–Δ.H3> : OBSERVATION FINALE】【EVA──「最終観測領域、収束。存在位相の変動……感情因子にて補正中」】──時間が、止まっていた。 無数の糸が、星々のように広がっていた。 それは運命のようでいて、た...
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Scene.21 ―「君は、まだ選んでいない」

火花が弾け、床を砕いた拳が空気を裂く。 リク・ロクジョウの動きは、まるで光そのものだった。 かつて“全盛”と謳われた男。だが今、その彼自身すらも超えていた。 放たれる銃弾の精度、義手から繰り出される衝撃、そして《ゼロポイント》を軸にした冷徹...
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Scene.20 ―「これは、対話ではない」

【<REFLOG–Δ.H3> : OBSERVATION COLLISION】【EVA──「交戦確認。各勢力が中枢外郭に集結。観測不能領域、拡大中」】 熱線の閃光が、回廊の曲面を焼いた。 赤く染まる警告灯の残光が、金属と血の匂いを交互に照ら...
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Scene.19 ―「空白は、埋まってしまった」

【<REFLOG–Δ.H3> : OBSERVATION DIVERGENCE】【EVA──「構成値異常。認識不能な空白が……収束を開始しました」】 黒曜石のような床が、わずかに呼吸していた。 Ω炉中枢。制御室の最奥、無人の立方空間。すべて...
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Scene.18a ―「観測断片:Δ.H2」

【<REFLOG–Δ.H2> 観測者:Δ.H0(M. Malik)】【状態:記録最終段階に移行中──同期精度低下】【注釈:観測構造に綻び/Δ.H1による因果干渉検出】【補助観測ログ:M-04】 EVAが沈黙してから、観測ノードの安定性が著し...
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Scene.18 ―「かすかに触れたものが、まだここにいる」

【補助観測ログ #E-0V-A】【現在位置:副領域ノード—Δ.H1近傍/干渉値:上昇中】【感情因子ノイズ:ホフマン由来意識片を検出】【外部存在との共鳴兆候あり──観測制御レベル:低下】「交戦中の因子に変調──リク・ロクジョウ、デルタチーム。...
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Scene.17 ―「名を持つものを、誰が定義するのか」

【補助観測ノード:E-0V-A_001】【対象因子:Δ.H1】【状態:存在位相・感情パターンともに定義失敗】 演算スレッド補足メモ:「観測不整合。演算項と存在実数の差異が閾値を超過」 演算ノードは再定義を試みます。 静まり返った中枢監視室。...
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Scene.16b ―「君の目に、答えを映して」(後編)

沈黙を破ったのは陽名だった。 彼女は、静かに一歩、ラズの前へと出る。華奢な身体が、重圧に軋む空気の中に立ちふさがった。 その場に、音がなくなった。誰も息を吸えなかった。空調の唸りも、焦げた回路の火花も、耳に届かない。ただ、陽名の小さな靴音が...
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Scene.16a ―「君の目に、答えを映して」(前編)

【戦術端末:J-JJ_02】【観測ノード:H1……ログ同期中……】「……ん? 今、誰かの観測ログが……?」 ジャン=ジャック・ジャカールの指が止まった。 それは本来、彼に届くはずのものではなかった。無記名の観測ログ。だが帯域には、見覚えがあ...
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Scene.15 ―「ゆがんだ正しさが歩いてくる」

【<SPRK-VIS.LOG> : CONNECTION PARTIAL — 実行コード断片/観測同期不安定】──ゴーグル内HUD表示中【視界入力:不明】【音声信号:断片】【記録モード:パッシブ(自動ログ)】【記録断片|#delta-H1】...
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Scene.14 ―「名を持たぬ者へ、名を託す」

【補助観測ログ Δ.H1】【記録端末:統律特命局・戦術支援ユニット《J-JJ_02》】【OBSERVATION STREAM FAILED】【LOGICAL ANCHOR LOST — 再同期不可】【現在位置:不明領域Δ — 簡易観測ノード...
クロス・レガシー(完結)

Scene.13a ― 「観測断片:Δ.H1」

【補助観測ログ M-05】 観測対象ログΔ.H1──再現率:0.00003%/信頼値:未定義。 本記録は、世界政府・観測局直属ノードM-05による補助観測の断片記録です。 このログには、主観的観測と感情的混入の兆候が確認されており、再解析に...
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Scene.13 ―「風だけが、通りすぎていった」

<REFLOG–Δ.H1> : OBSERVATION INSTABLE … SIGNAL NOISE DETECTED】【EVA──「戦闘領域において未知因子の干渉。映像ログ一部に乱れ発生。記録継続」】 焦げついた空気が、地下の空間に重く...
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Scene.12b ―「まぶしすぎて、だれも見えなかった」(後編)

ラズは満面の笑みで拍手していた。「よくやってるね、みんな。ボクの演出に応えてくれて嬉しいよ」「お前!」 ポイゾナスが歯噛みする。「安心して、毒女ちゃん。主役は、ちゃんと舞台に立ってる。もう……希望は、君たちの中にあるよ」 ラズは陽名を指差し...
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Scene.12a ―「まぶしすぎて、だれも見えなかった」(前編)

【<REFLOG–Δ.H1> : MULTI-NODE CONFLICT DETECTED】【EVA──「観測対象が複数地点に分岐。交戦予兆を検知。中継ログ転送開始」】 仮想ネットワーク内。 地下の空気は粘つくように湿り、遠くで金属が軋む音...
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Scene.11 ―「目を閉じたほうが、よく見えた」

【<REFLOG–Δ.H0> : OBSERVATION UNSTABLE … MULTI-NODE ANOMALY DETECTED】【EVA──「都市内異常、小〜中規模クラス:16件並行発生。統一因子なし。記録保持を優先」】 灰色の“空...
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Scene.10 ―「ふれたとき、それはまだ動いていなかった」

【<REFLOG–Δ.H0> : OBSERVE MODE / TEXT-ONLY】【EVA──「通信接続。対象:リク・ロクジョウ。感情変動値 0.42 ― 安定域外」】 灰色の夕凪が、廃ドーム都市をゆっくりと撫でていた。空はどこまでも鈍色...
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Scene.09 ―「あたたかい嘘は、ほんとうより冷たかった」

【<REFLOG–Δ.H1> : COMPLIANCE DEFERRED … SYS.LOG SYNC 0.91】【補助記録ログ #Δ.H1]】【観測対象因子:未定義 / 干渉率:0.91 / 分岐タグ:UNRESOLVED 】【エリアコー...
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Scene.08 ―「しずかに触れた、手のひらだけが確かだった」

白衣の裾が、扉の向こうをすり抜けた。視界の端に、たしかに“誰か”の輪郭があった。赤い非常灯がわずかに揺れ、その揺らぎの奥に、白くなびく衣が確かに存在した。 アビゲイルの網膜には〈0.3秒先の残像〉が焼きついていた。周囲の空気は、何かが“触れ...
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Scene.07 ― 「この場所には、まだ名前がない」

……音楽が流れていた。 ゆるやかで、どこか物悲しい旋律。サティの「グノシエンヌ第1番」。  天井の蛍光管は半分が消えかけ、青白い明滅を繰り返していた。壁面に設置された計測機器のインジケーターが、まるで呼吸のように断続的な緑光を灯している。空...
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Scene.6a ― 「観測断片:Δ.H0」

【補助観測ログ M-04】 本記録は、統律特命局傘下の記録端末M-04による自動送信記録である。  観測対象ログΔ.H0──再現率:0.02%/信頼値:不明。 本記録には、映像・音声・触覚・熱源データの一部が欠落しています。 衛星通信は安定...
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Scene.06 ―「記憶されなかった約束たち」

煤けた鉄骨が軋むたび、薄闇に赤錆の粉が舞った。  誰にも使われなくなって久しい廃工場には、オイルと鉄の臭いが染みついていた。 空気は重く、湿気を含んだ冷気が地面を這っている。崩れた梁の隙間からは、かすかに風が鳴く音がした。 廃工場の奥。シャ...
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Scene.05 ― 「星のない空が見ていた」

廃棄された駅ホームに、三つの黒い影が降り立った。 金属の匂いが、鼻の奥にひっかかる。地下の空気は重く、天井を流れるパイプの継ぎ目から滴る水音が、ひときわ静かな空間に溶けていた。非常灯の冷たい白色が、コンクリートの柱を切り裂くように照らし出す...
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Scene.04 ―「火は名前を知らない」

夜が明けきらぬ[トーキョー・シティ]第21区。 かつて物流の拠点として栄えた地下倉庫は、今や瓦礫と沈黙に埋もれた空洞と化していた。空気は乾いているのに、微かにカビのような鉄の匂いが漂っていた。遠くで軋む機械音が響いている──だが、それすらも...
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Scene 03 ―「正しさだけが歩いている」

ガンマチームが第4衛星ドーム[カナメ]に到着したのは、薄曇りの朝だった。 メインドームから隔たれたその支部都市は、半球型のアクリル天蓋を通して仄かに陽光を受け止めていた。 静まり返った連絡地下道を抜けた先に、[統律特命局]第4方面支部の重厚...
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Scene.02 ─「この街に、涙の匂いがした」

夜の都市、[トーキョー・シティ]第14街区。 そこは、もはや“街”と呼ぶには、あまりにひび割れていた。崩れた舗装路の断面からは、赤錆びた配管がむき出しとなり、倒壊寸前の高層棟が月面のクレーターのような影を落とす。 非常灯に強制切替された街路...
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Scene.01 ―「砕けた命の形」

「……で? また“調査任務”ってやつか?」 リョウが、後部座席でポテチの袋をあさりながらぼやいた。黒いスーツ、黒いネクタイに白いシャツを着た大柄で筋肉質な東洋系の男性で、特注の黒いチタン製サングラスをかけている。 黒スーツの襟元には、スナッ...
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Scene.00 ― 「始まりの音はまだ届かない」

「ねえ、EVA。君は、“世界の定義”が誰によって書かれたか、考えたことがあるかい?」「あなたの構成比は、予測から逸脱しています」 仮想空間の深部──  冷却装置の駆動音と演算ノードのわずかな振動の中で、青年の“声”が響いていた。   まだ肉...
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