【REFLOG:Δ.H1】
【TARGET:Δ.H0】
【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】
【CONTACT:ACTIVE】
【IDENTITY COHERENCE:UNSTABLE】
スプロケットの指が陽名の手を掴んでいる。
震えた指がずれるたびに握り直した。
「ぼくは……」
大量のノイズ。
知らない声。
知らない感情。
自分が見た覚えのない場所。
誰かが泣いている。
誰かが笑っている。
誰かが名前を呼んでいる。
どこまでが自分なのか分からない。
「ぼくは……誰……」
「スプロケット」
タウロス。
「スプロケット」
ポイゾナス。
「スプロケット」
フェイズ。
「スプロケット」
陽名。
オラトリオが水晶玉を抱いたまま、静かに続ける。
「呼ばれた名は、戻る道になる」
スプロケットの呼吸が一度止まった。
ゴーグルの奥。
無数の声の中で。
その名前だけが何度も繰り返される。
スプロケット。
スプロケット。
スプロケット。
「……ぼくは」
唇が震える。
「スプロケット」
タウロスの肩から力が抜けた。
ポイゾナスも息を吐く。
フェイズが顔を背ける。
「最初から知ってる」
「……うるさい」
「戻ったなら言えるだろ」
「戻った……のかな」
スプロケットは陽名の手を見る。
まだ触れている。
頭の中には、自分のものではない断片が残っていた。
消えていない。
整理もできない。
ただ。
それらの中に、自分の名前だけはある。
「陽名」
「うん」
「ぼく、前と同じ?」
陽名は少し考えた。
「わからない」
「そっか」
「でも」
陽名がスプロケットを見る。
「スプロケットでしょ?」

スプロケットは答えなかった。
少しだけ笑った。
スプロケットが指を一本ずつ緩めた。
陽名の手から自分の手を離す。
【PHYSICAL CONTACT:TERMINATED】
【CYBER RESONANCE:DECLINING】
【IDENTITY COHERENCE:PARTIAL】
【RESIDUAL DATA:DETECTED】
完全には戻っていない。
それでも。
スプロケットは自分の足へ体重を移そうとした。
膝が揺れ、タウロスが脇から腕を貸す。
「無理すんな」
「歩ける」
「さっきも聞いた」
「今はほんと」
「信用ねぇな」
「タウロスが心配しすぎ」
「お前が無茶しすぎだ」
「……それは、たぶんそう」
⸻
アビゲイルは高架下の公共ディスプレイへ顔を向けた。
画面の中ではラズがまだ拍手していた。
「いやぁ」
ラズが笑う。
「これは予想以上だった」
フェイズが振り返る。
「お前……!」
「待って待って」
ラズが両手を上げた。
「直接会わせれば何か起こるとは思ってたよ」
スプロケットを見る。
「でも、ここまで繋がるとは思ってなかった」
「何をした」
タウロスの声が低い。
「僕は場所を教えただけ」
「それを信じろと?」
ポイゾナスが問う。
「全部信じなくてもいいよ」
ラズの視線が陽名へ移る。
「でも面白いね」
陽名は画面を見ている。
「みんな、この子を見てる」
ラズは指を一本立てた。
「ガンマは守る対象として」
二本目。
「[スペリオルズ]は仲間を助けるための手掛かりとして」
三本目。
「ミーラは答えとして」
四本目。
「僕は未知変数として」
ラズが笑った。
「スポットライトが多すぎるんだよ」
アビゲイルの目が細くなる。
「何が言いたい?」
「みんな、自分が見たいものを照らしてる」
画面の中で、ラズが陽名を見る。
「それじゃあ、真ん中にいる子が見えなくなる」
陽名が首を傾げた。
「わたし、見えてるよ?」
一瞬。
誰も返さなかった。
ラズが吹き出す。
「そういうところ、本当にいいなぁ」
「遊んでる場合?」
陽名が聞く。
ラズの笑みが少し止まる。
「……誰に教わったの、それ」
「みんな」
「なるほど」
ラズは小さく頷いた。
「予定にない台詞が増えるわけだ」
別の音声が割り込む。
『ラズ』
EVA。
『局地防衛系統の再編が完了しました』
「うん」
『追加介入を行えば、先ほどの接触結果との因果分離が困難になります』
「もう十分見たよ」
『そうですか』
「次は、こっちを見る」
ラズが周囲を指す。
「陽名じゃない」
「君たちが何を選ぶか」
通信が切れた。
【EXTERNAL DISPLAY CONTROL:RELEASED】
直後。
ジャンの端末が警告を出す。
【LOCAL DEFENSE ROUTE:UPDATED】
【CENTILLET UNITS:APPROACHING】
【BIOLOGICAL MOVEMENT:MULTIPLE】
「来ます!」
周囲の路地から機械音が近づいてきた。
その間に十数人の変異市民が見える。
アビゲイルが別方向へ目を向けると、そちらの路地からも人影が出てきた。
足取りは不規則。
だが進路だけは、この場所へ向けられていた。
「都市側の誘導が変わった」
ジャンが地図を開く。
「〈センチレット〉と変異市民、両方がこちらへ寄せられています」
「ラズ?」
リョウが聞く。
「少なくとも偶然ではありません」
アビゲイルが即座に周囲を見る。
「戦闘可能者は前へ」
陽名を見る。
「陽名、〈レイヴン〉の後方へ」
次にスプロケット。
「あなたも」
「ぼく、まだ――」
「今は休んで」
ポイゾナスも頷く。
「従って」
「……分かった」
「ジャン」
「はい」
「変異市民は生存優先」
「了解」
「〈センチレット〉は?」
リョウが笑う。
「壊していい?」
「それは止めない」
「よっしゃ」
タウロスが横へ並ぶ。
「さっきの続きは?」
リョウが聞く。
「後だ」
「生きてたら?」
「当然だ」
「気に入った!」
リョウが拳を合わせる。
「変身ッ!」
腕の皮膚が黒銀へ変わった。
生体金属化が肩から胸部へ広がっていく。
《クロガネ》。
タウロスも重心を落とす。
肩と背中の筋肉が膨張。
頭部に巨大な角。
《ブルホーン》。
完全な獣にはならない。
人間の身体を残したまま、巨大なバイソンを思わせる圧力だけが増す。
「行くぞ、金属野郎!」
「ヒーロー様だっつってんだろ!」
二人が走る。
最初の〈センチレット〉へ。
タウロスが正面から機体を受け止めた。
押し合う間に〈センチレット〉の脚部が地面を削る。
「重てぇな!」
「そっちが言うな!」
リョウは機体の側面へ回って掴んだ。
タウロスが正面を押し上げると駆動脚の片側が地面を離れる。
「せーの!」
「要らん!」
二人は傾いた機体を横倒しに投げた。

〈センチレット〉が道路へ叩きつけられ、下になった駆動脚が折れる。
次の一体。
リョウが拳を打ち込む。
タウロスが角で押し返す。
機械だけを潰す。
変異市民が接近すると、二人とも攻撃の角度を変えた。
伸ばしてくる腕を掴み、進路をずらして壁際へ押し込む。
抵抗する者を気絶させると機械が踏まない位置へ倒した。
殺さない。
「器用じゃねぇか!」
リョウが叫ぶ。
「お前よりはな!」
「そこは認めねぇ!」
⸻
「右から三体!」
ジャンの声。
青白い歪みを残してフェイズが消えた。
変異市民の後方へ出現し、肩を掴んで進路を車両から逸らす。
相手が振り向く前に手を離し、次の位置へ跳んだ。
「アビゲイル!」
「見えてる」
《ミライメージ》。
数秒先。
フェイズの出現位置。
〈センチレット〉の射線。
変異市民の進行方向。
複数の残像。
「次、左上」
「そこ使う!」
フェイズが跳ぶ。
アビゲイルはフェイズを追って機体が旋回する位置へ走った。
〈高周波刀〉の振動音が響く。
向きを変えた機体の脚関節を切断すると〈センチレット〉は横へ倒れた。
「便利だな、それ!」
フェイズが叫ぶ。
「あなたの転移もね」
「褒められた?」
「任務中」
「固いな!」
「フェイズ、次!」
「はいはい!」
再び消える。
⸻
ジャンが変異市民の動きを追う。
「ポイゾナス!」
「聞いてる」
「右側、呼吸量が浅い五名」
「鎮静濃度を下げる」
「左の三名は動きが速い」
「そっちは先に落とす」
《ヴェネナム》。
薄い紫色の霧。
ジャンが風向きを表示する。
「3秒後に右へ流れます」
「十分」
ポイゾナスが風上へ位置を変えた。
薄い霧が変異市民へ届き、一人、二人と足が遅くなる。
座り込んだ後も目は開いていた。
「次」
ジャンが端末を見る。
「12時方向」
「分かった」
ジャンがカスタム拳銃を撃つ。
二発。
〈センチレット〉の照準センサーを破壊。
ポイゾナスがその陰を使い、変異市民へ鎮静霧を送る。
「意外とやるわね」
「意外は余計です」
「自信家?」
「事実です」
ポイゾナスが少しだけ笑った。
⸻
後方へ下がったスプロケットは〈レイヴン〉の脇に腰を下ろしていた。
車体へ背中を預けると足に掛かっていた重みが抜ける。
陽名が隣にいる。
ゴーグルは外していない。
だが、表示の半分を切っている。
「静か?」
陽名が聞く。
「前よりは」
「まだ聞こえる?」
「うん」
「わたし?」
「陽名だけじゃない」
スプロケットは指先を見る。
「知らない人」
「知らない場所」
「ぼくのじゃない気持ち」
陽名は黙って聞いた。
「怖い?」
「……怖い」
「そっか」
「でも」
スプロケットが戦場を見る。
タウロス。
ポイゾナス。
フェイズ。
オラトリオ。
「ちゃんと戻れる気がする」
「なんで?」
「呼んでくれるから」
陽名が少し笑う。
「名前?」
「うん」
「いいね」
「陽名もそう?」
陽名は少し黙ってから口を開いた。
「うん」
短く答えた。
⸻
少し離れた場所。
オラトリオは水晶玉を両手で抱えていた。
水晶の内部へ、複数の断片が重なる。
陽名。
スプロケット。
周囲の通信記録。
残留した感情。
どれも一つにはならない。
青い紋様が淡く脈打った。
「……重なる」
ミーラが〈レイヴン〉内部から通信を入れる。
『何が見えるの?』
「二つではない」
『どういう意味?』
「陽名」
「スプロケット」
「その間に」
オラトリオが水晶へ指を添える。
「名前を失ったものが多すぎる」
『具体的に』
「できない」
ミーラが黙る。
「記録ではない」
オラトリオは続けた。
「私には――祈りに近く見える」
『それは観測結果?』
「いいえ」
即答。
「私の解釈」
ミーラは少し間を置いた。
『なら、そう記録する』
オラトリオの口元が僅かに動いた。
「それでいい」
⸻
戦闘は続いている。
新たな〈センチレット〉が高架の向こうから現れた。
変異市民も増えている。
「キリがねぇ!」
リョウが一体を押し倒す。
その時。
一人の変異市民が横から飛びかかった。
リョウが振り向く。
間に合わない。
別の手が飛びかかってきた腕を掴んだ。
関節を捻りながら身体を引き、相手の重心を崩す。
男は変異市民を地面へ伏せさせると、それ以上は打たなかった。
「……誰だ?」
リョウが見る。
一人の男が立っていた。
黒いTシャツに使い古された作業着。
服装だけなら廃墟の修理屋にしか見えない。
だが、背筋は伸びている。
作業着の下で筋肉が動き、伏せさせた相手から離れる足にも淀みがなかった。
左眼の義眼が青白く光っている。
黒銀色の左義手にも同じ色のラインが走っていた。
腰には大型リボルバーがある。
リョウは男の顔を見た。
動きに反して目は疲れていた。
「……そこ退け」
低い声。
「は?」
「邪魔だ」
次の〈センチレット〉が突進する。
男は避けない。
左義手を前へ出す。
衝突。
《ゼロポイント》。
運動エネルギーが吸収される。

機体の勢いが急激に落ちた。
男は勢いを失った機体の側面へ回った。
義手を駆動部へ押し当て、残留電力と振動、熱を吸収する。
青白いラインが強くなる。
〈センチレット〉の脚が止まった。
男は手を離す。
「うお……」
リョウがサングラス越しに見る。
「めちゃくちゃだな、おっさん」
「誰がおっさんだ」
「いや、おっさんだろ」
「今は違ぇ」
「そこ気にすんの!?」
ジャンの端末が警告を出す。
【ARCHIVE MATCH】
【LEGACY RECORD:PARTIAL】
【AGENT ZERO】
ジャンが画面を見る。
次に男。
「……まさか」
アビゲイルが聞く。
「知ってる?」
「封鎖された旧記録で名前だけ」
ジャンの声が低くなる。
「エージェント・ゼロ」
アビゲイルの目が男へ向く。
「リク・ロクジョウ……?」
リクは答えない。
倒れた変異市民の呼吸を確認する。
「生きてる」
それから〈センチレット〉を見る。
「こいつらは壊していいんだな」
「構いません」
アビゲイルが答える。
「なら話は早ぇ」
リクが首を鳴らした。
「久しぶりに、まともに動ける」
左義手が青白く光る。
「使わせてもらうぞ」
⸻
リクは車両の脇から自分を見ている少女に気づいた。
そちらへ顔を向けると目が合った。
その瞬間、左義手内部の記律の石が小さく反応する。
青白い光が一度だけ揺れた。
リクは足を止めた。
動いた拍子に作業着が肩へ張る。
58歳の身体から白髪と皺は減り、筋肉には全盛期に近い張りが戻っていた。
それでも、今触れた気配は古いままだった。
「……」
昔。
誰もいない場所で聞いた声。
気配。
夢。
幽霊のように近くにいた何か。
廃工場で球体に触れた時に蘇った感覚。
それと似ている。
陽名が首を傾げた。
「知ってる?」
リクはしばらく答えなかった。
「いや」
陽名を見る。
「お前は知らねぇ」
「そっか」
「だが」
左義手を一度見る。
「似た気配なら、昔から知ってる」
陽名は何も言わなかった。
リクにも分からない。
陽名にも説明しない。
それで会話は終わった。
リクは戦場へ戻る。
陽名は、その背中をしばらく見ていた。
⸻
変異市民の数が減り始める。
鎮静。
拘束。
誘導。
〈センチレット〉は次々と機能停止していった。
ガンマと[スペリオルズ]。
さっきまで互いに刃と拳を向けていた者たちが、同じ方向を見ている。
「左!」
アビゲイル。
「跳ぶ!」
フェイズ。
「3秒!」
ジャン。
「十分!」
ポイゾナス。
「押せ!」
タウロス。
「オレに命令すんな!」
リョウ。
「口動かす前に殴れ!」
「今殴ってる!」
〈センチレット〉が二人の間で倒れる。
リクが横を通りながら言った。
「うるせぇ連中だな」
「誰だよこのおっさん!」
「エージェント・ゼロらしいです!」
「それ名前!?」
ジャンが叫ぶ。
「説明は後です!」
「なら後でいい!」
リョウは再び前へ出た。
⸻
数分後。
最後の〈センチレット〉が停止した。
変異市民は路上や建物際へ横たわっている。
生命反応は残っている。
ポイゾナスが一人ずつ確認していく。
ジャンも端末で照合。
「死亡反応なし」
アビゲイルが息を吐く。
「全員、周囲警戒」
フェイズがナイフをしまう。
「今さらだけどさ」
「何?」
アビゲイルが見る。
「俺ら、なんで最初に殴り合ってたんだ?」
リョウが答える。
「お前が勝手に飛んだからだろ」
「お前には聞いてねぇ」
「じゃあ聞くなよ!」
タウロスが笑う。
ポイゾナスが額へ手を当てる。
「終わってからにして」
スプロケットが小さく笑った。
さっきまでより弱い。
だが。
自分の言葉でタウロスへ言い返していた時の表情が戻っている。
陽名がその隣で笑う。
アビゲイルは二人を見る。
守る。
その判断自体は間違っていない。
ただ。
守ることと。
本人の代わりに決めることは違う。
「陽名」
「うん」
「次に何かあったら」
アビゲイルは少し考える。
「あなたにも聞く」
陽名が首を傾げる。
「いままで聞いてなかった?」

沈黙。
リョウが吹き出した。
「リーダー、負けたな」
「黙って」
「はい」
⸻
【OBSERVATION NODE:MEERA MALIK】
ミーラは端末に残った接触データを追っていた。
【TARGET:HINA】
【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】
【VISUAL:CONFIRMED】
【AUDIO:CONFIRMED】
【THERMAL:CONFIRMED】
【PERSON ID:UNRESOLVED】
【CYBER RESONANCE:RESIDUAL】
【ROUTE TRACE:PARTIAL】
【OBSERVATION:PARTIAL】
記録はある。
全部消えたわけではない。
むしろ。
多すぎる。
違う系統の情報が、同じ接触点へ重なっている。
「陽名を見れば答えがある」
ミーラが呟く。
自分で言った言葉に違和感があった。
画面の陽名を見る。
少女はスプロケットの横で座っている。
何も説明していない。
「……違う」
ミーラは画面を閉じなかった。
「私が、答えを置きたがってるだけ?」
返事はない。
黒曜石のイヤーカフへ触れかける。
途中で指を止めた。
もう一度。
データへ目を戻した。
⸻
離れた地下区画。
ラズは複数の戦場映像を見ていた。
隣には実体を持つEVAが立っていた。
青灰色の瞳が同じ映像を追っている。
「ここまでは予定通り」
ラズが言う。
「そこから先は、全然違う」
「スプロケットと陽名の接続は、Ω計画の既存分類へ適合しません」
「うん」
「リク・ロクジョウの再参戦も、あなたが想定していた時刻より早い」
「それもいい」
「良いのですか」
「想定外だからね」
ラズはリクの映像を拡大する。
「舞台を作ったのは僕」
「でも、役者が台本通りに動くとは限らない」
「あなたは、それを嫌う時もあります」
「今日は面白い方が勝ってる」
EVAはすぐには返さなかった。
別の表示を開く。
【DELTA TEAM】
【VINCENT VAN VISSEL】
【GUADALUPE GARCÍA GONZÁLEZ】
【MAKENA MUSONI MWENDOA】
【FIELD LINK:ACTIVE】
ラズの目が細くなる。
「リク・ロクジョウの現在地を確認しました」
「そっちも来たか」
「迎撃命令を出しますか」
ラズは少し考える。
「出して」
「目的は?」
「止める」
一拍。
「できればね」
EVAがラズを見る。
「なに?」
「あなたは、彼らが命令通りに動かない可能性を考えています」
ラズが笑う。
「長い付き合いだね」
「15年近くになります」
「じゃあ分かるでしょ」
ラズは画面を見る。
「動かなかったら、それも答えだ」
EVAは命令を送る。
【DELTA TEAM:FIELD LINK ACTIVE】
【INTERCEPT TARGET:RIKU ROKUJO】
【OBJECTIVE:STOP ADVANCE】
【COMMAND LINK:VERIFIED】
画面の向こう。
三つの反応が動き始めた。
ラズは椅子へ深く座る。
「さて」
「昔の主人公は、今度は何を選ぶかな」
「観測を継続します」
「うん」
別画面。
陽名。
スプロケット。
ガンマ。
[スペリオルズ]。
リク。
誰も同じ理由でそこにいるわけではない。
それでも。
一度は同じ場所へ立った。
「EVA」
「はい」
「スポットライトってさ」
「はい」
「当てすぎても、見えなくなるんだね」
「光学的な話ですか」
「半分くらい」
「残りは?」
ラズは答えなかった。
⸻
【REFLOG:Δ.H1】
【TARGET:Δ.H0】
【VISUAL:CONFIRMED】
【AUDIO:CONFIRMED】
【THERMAL RESPONSE:CONFIRMED】
【PERSON ID:UNRESOLVED】
【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】
【IDENTITY COHERENCE:PARTIAL】
【ROUTE TRACE:PARTIAL】
【OBSERVATION:PARTIAL】
【TRACE:CONTINUED】
陽名は、最初からそこにいた。
見えなかったわけではない。
声も聞こえていた。
触れることもできた。
まぶしすぎたのではない。
ただ、誰も、見ようとしなかった。


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