【REFLOG:Δ.H1】
【MULTI-NODE CONFLICT:PREDICTED】
【TARGET:Δ.H0】
【TRACE:CONTINUED】
トーキョー・シティ地下。
廃止された通信中継区画。
湿った空気の中で、旧式冷却機の駆動音だけが続いていた。
壁面に並ぶ端末の半分は暗いままだった。
スプロケットは稼働している一台の前へ座り、そこに接続していた。
「……また、いる」
黒いパーカーの背中が小さく震える。
VRゴーグルの内側。
大量のノイズ。
その向こうに、一人の少女が映っていた。
白い服。
小柄な身体。
陽名。
【PERSON DETECTED】
【ID:UNRESOLVED】
【TRACKING:UNSTABLE】
映像そのものは鮮明だった。
少女は歩いている。
周囲の人間と話している。
熱源もある。
声も記録されている。
それでも人物タグだけが何度も外れた。
「スプロケット」
ポイゾナスが呼ぶ。
「一度切って」
「もう切った……」
スプロケットがゴーグルへ手を添える。
「でも、残ってる」
「何が?」
「分かんない」
息が浅い。
「音……みたいで、声みたいで……ぼくのじゃないものが、ずっと混ざってる」
⸻
ポイゾナスはすぐ隣へ膝をついた。
スプロケットのゴーグルを少し持ち上げ、瞳孔を確かめる。
元へ戻して手首に指を当てた。
脈を取りながら浅い呼吸と手の震えを確認する。
「再接続した?」
スプロケットは答えなかった。
「したのね」
「……ちょっとだけ」
「何回?」
「……」
「スプロケット」
「分からない」
ポイゾナスが小さく息を吐いた。
責めなかった。
《ヴェネナム》で生成する成分を調整する。
神経過負荷を抑えるごく弱い鎮静作用に留め、呼吸の変化を見守った。
「これ以上、自分から繋がらないで」

「でも」
「分からないものを放っておけないのは知ってる」
ポイゾナスはスプロケットの肩へ手を置く。
「それであなた自身が消えたら、確かめる人間がいなくなる」
スプロケットが黙った。
後方。
タウロスが腕を組んでいる。
「言うこと聞け」
「……二人とも同じこと言う」
「正しいからな」
「たぶん」
フェイズは壁際から端末を見ていた。
「まだ繋がってるな」
「分かる?」
「お前の顔見りゃ分かる」
「それ、解析じゃない」
「俺は解析屋じゃねぇ」
オラトリオだけが少し離れた場所に立っている。
白いフード。
目隠し。
両手には水晶玉。
彼女は映像の陽名ではなく、スプロケットの方へ顔を向けていた。
「名は、もうある」
小さな声。
「けれど、呼ぶ声が多すぎる」
スプロケットが顔を上げる。
「……ぼく?」
オラトリオは答えなかった。
その時。
中継端末の画面が切り替わった。
【EXTERNAL ACCESS】
【SOURCE:UNRESOLVED】
「来た」
フェイズがナイフへ手を伸ばす。
「待って」
ポイゾナスが制した。
画面に赤い髪の青年が現れる。
「こんにちは」
ラズだった。
「相変わらず物騒だね」
「要件を言いなさい」
ポイゾナスの声は冷たい。
「もちろん」
ラズは笑う。
「スプロケットの状態、良くないでしょ?」
タウロスの表情が変わる。
「見てんのか」
「生体データまでは取ってないよ」
「信用できるか」
「できないね」
ラズはあっさり認めた。
「でも、原因候補なら知ってる」
「陽名?」
ポイゾナスが尋ねる。
「正確には、陽名そのものというより――」
ラズがスプロケットを見る。
「君のところの電子戦担当が、陽名の周囲にある何かへ繋がり続けてる」
スプロケットの指が止まった。
「ぼくが……?」
「《サイバー・リゾナンス》って便利だよね」
ラズの笑みが少し薄くなる。
「電子信号だけなら良かったんだけど」
「どういう意味?」
「僕にも全部は分からない」
フェイズが鼻で笑った。
「またそれか」
「分からないから観測してるんだよ」
「お前の観測に付き合う気はない」
「僕も頼んでないよ」
ラズが肩をすくめる。
「ただ、このまま遠隔で引っ掛かり続けたら、先にスプロケットの方が持たないかもしれない」
タウロスが一歩前へ出た。
「なら切れ」
「できたらやってる」
ラズは即答した。
「EVA側のアクセス制御を閉じても残る。都市ネットワークから切っても残る」
スプロケットの呼吸がまた乱れる。
「……切れない」
「だから」
ラズが別の画面を開いた。
都市地図。
一本の移動経路。
「陽名の現在位置を送る」
ポイゾナスがラズを見る。
「直接会えと?」
「会うかどうかは君たちが決めればいい」
「あなたは結果を見る」
「もちろん」
「私たちを実験材料にして」
「その部分は前にも説明したよ」
フェイズが舌打ちする。
「本当にムカつくな、こいつ」
「褒め言葉として受け取るね」
ポイゾナスは転送された位置情報を見る。
数秒。
「ラズ」
「うん?」
「あなたが何を狙っているかは後で考える」
「合理的だ」
「今はスプロケットが先」
ラズの笑みが消えた。
一瞬だけ。
「それでいいと思うよ」
通信が切れた。
【EXTERNAL ACCESS:TERMINATED】
静寂。
タウロスがスプロケットを見る。
「行くぞ」
「……うん」
ポイゾナスが立ち上がる。
「フェイズ」
「先に見る」
「無茶はしないで」
「それ俺に言う?」
「あなた以外に誰へ言うの」
フェイズが笑う。
「分かったよ」
フェイズは経路に沿う建物配置を確認した。
視認済みの座標から中継点を選び、障害物のない出現場所を確かめる。
青白い歪み。
フェイズの姿が消えた。
一人だけ。
タウロスがスプロケットを抱き上げる。
「歩けるよ」
「今のお前より俺の方が速い」
「重くない?」
「軽すぎる」
「失礼」
「食え」
「リョウみたいなこと言う……」
「誰だそれ」
「知らない人」
タウロスが首を傾げる。
ポイゾナスが先頭へ立つ。
オラトリオが続く。
「行くわよ」
四人は地上への通路へ向かった。
⸻
数時間後。
トーキョー・シティ市街地外縁。
ガンマチームは〈レイヴン〉で指定回収地点へ向かっていた。
後部区画ではマナイアが座席を倒し、腹部の治療を継続している。
その隣にミーラが座っていた。
アビゲイルが後方を確かめると陽名もマナイアの近くにいる。
少女はそこを離れようとしなかった。
「前方に複数反応」
助手席のジャンが顔を上げた。
「五名」
アビゲイルが速度を落とす。
「識別」
「[スペリオルズ]」
表示が並ぶ。
【POISONOUS】
【TAURUS】
【PHASE】
【SPROCKET】
【ORATORIO】
「一名、バイタル低下」
「スプロケット?」
「はい」
アビゲイルは〈レイヴン〉を停止させた。
「ジャン、車内防護を維持」
「了解」
「リョウ」
「前だな」
「まだ戦わない」
「分かってるって」
リョウがドアを開く。
「向こうが殴ってきたら?」
「その時は止めて」
「了解」
アビゲイルも降りる。
最後に陽名を見る。
「ここにいて」
陽名が首を傾げる。
「なんで?」
「危険かもしれない」
陽名は車外を見る。
「……あの子、苦しそう」
スプロケットだった。
タウロスに支えられている。
「まず話す」
アビゲイルが答えた。
「分かった」
⸻
【REFLOG:Δ.H1】
【TARGET:Δ.H0】
【VISUAL:CONFIRMED】
【THERMAL:CONFIRMED】
【AUDIO:CONFIRMED】
【PERSON ID:UNRESOLVED】
【TRACKING:UNSTABLE】
【SECONDARY SUBJECT:SPROCKET】
【BIOLOGICAL LOAD:ELEVATED】
⸻
高架橋の陰で二つの集団が向かい合った。
アビゲイルは〈レイヴン〉を背に立ち、リョウが横を固めている。
前方ではタウロスがスプロケットを支え、その脇にポイゾナスがいた。
アビゲイルは〈高周波刀〉へ手を掛けている。
抜かない。
「止まって」
ポイゾナスたちが足を止める。
「私たちは[統律特命局]ガンマチーム」
「知ってる」
フェイズが言った。
「ラズから情報をもらった」
「目的は?」
ポイゾナスが前へ出る。
「陽名と話をしたい」
「理由」
「スプロケットとの接続を切るため」
アビゲイルがスプロケットを見る。
顔色が悪い。
呼吸も浅い。
「こちらで治療できます」
「違う……」
小さな声。
スプロケット自身だった。
「治療じゃ……切れない」
「何が起きてる?」
「ぼくにも……分かんない」
ゴーグルを押さえる。
「ずっと、何か聞こえる」
「陽名の声?」
「それだけじゃない」
スプロケットの表情が歪む。
「いっぱい……混ざってる」
ポイゾナスが彼女を支える。
「神経負荷は私が抑えてる。でも原因は止められない」
「だから陽名へ接触させる?」
「確認するだけ」
「安全の保証は?」
「ない」
アビゲイルは即答しなかった。
ポイゾナスも続ける。
「そっちにもないでしょう?」
沈黙。
フェイズが口を開く。
「時間がねぇ」
「だからといって通せない」
「話すだけだ」
「陽名本人の安全を確認できない」
タウロスの声が低くなる。
「スプロケットは今苦しんでる」
「見れば分かる」
「なら――」
「タウロス」
ポイゾナスが止める。
アビゲイルを見る。
「直接、陽名へ聞けばいい」
その言葉で。
アビゲイルは一瞬だけ止まった。
背後の〈レイヴン〉には陽名がいる。
アビゲイルは刀へ掛けた指をわずかに緩めた。
ここまで全員が、
保護。
治療。
観測。
接触。
安全。
それぞれの言葉を使っている。
だが。
誰も陽名本人へ何をしたいのか聞いていない。
アビゲイルが振り返ろうとした。
その瞬間。
フェイズが消えた。
「フェイズ!」
ポイゾナスの声。
アビゲイルの《ミライメージ》が反応する。
数秒先。
複数の未来。
〈レイヴン〉の側面。
フェイズ。
陽名へ接近。
アビゲイルは一つを選ぶ。
アビゲイルは車両側へ踏み込みながら〈高周波刀〉を抜いた。
振動音に重なって青白い歪みが生じる。
出現したフェイズと車両の間へ身体を入れた。
「そこまで」
「退け!」
フェイズのナイフがアビゲイルの〈高周波刀〉とぶつかった。

金属音とともに火花が散る。
フェイズはすぐに後方へ跳ぶ。
「話すだけだって言ってるだろ!」
「今のが話しに来た人間の動き?」
「時間がねぇんだよ!」
アビゲイルが構える。
「だからって勝手に近づけさせない」
タウロスが前へ出た。
「なら押し通る」
「おっ」
リョウが笑う。
「デカいな」
両腕が黒銀へ変わる。
《クロガネ》。
「悪いけど、こっちも通すわけにゃいかねぇ」
「退け」
「それは無理」
タウロスの肩と背中が膨張する。
巨大な角。
低い重心。
《ブルホーン》。
「なら来い」
「ヒーロー様相手に正面勝負とはいい度胸だ!」
二人が正面からぶつかった。
鈍い衝撃が響き、踏ん張った足元にひびが走る。
リョウの足が後ろへ滑った。
「重っ……!」
「そっちもな」
リョウが笑う。
「気に入った!」
「俺はまだ決めてねぇ!」
再び衝突。
「リョウ、出力を上げすぎないで!」
「分かってる!」
アビゲイルがフェイズを見る。
その背後。
ジャンが車内防護の表示を端末で確かめ、車両横へ出た。
カスタム拳銃は下げたままだった。
「ポイゾナス!」
「何?」
「スプロケットの状態を見せてください!」
「今さら信用しろと?」
「治療できますとは言いません!」
ジャンは端末を構える。
「でも、何が起きてるか比較はできる!」
ポイゾナスが迷う。
スプロケットが身体を震わせた。
「っ……」
「スプロケット!」
ゴーグルへノイズ。
【CYBER RESONANCE:OVERLOAD】
【SELF-BOUNDARY:UNSTABLE】
「ぼく……」
声が震える。
「また……増えてる」
「切って!」
「切ってる!」
「じゃあゴーグルを外して!」
「違う……これ、機械からじゃない……」
スプロケットが顔を上げる。
〈レイヴン〉。
その中。
陽名。
まっすぐ見ていた。
「……ヒナ」
少女がその声に反応する。
ドアへ近づく。
「陽名!」
アビゲイルが振り返る。
陽名が開いたドアに手を掛け、車外へ降りた。
「戻って!」
「でも」
陽名はスプロケットを見る。
「あの子、苦しい」
「危険かもしれない」
「わたしが?」
アビゲイルが答えられなかった。
「それとも、あの子が?」
陽名は聞いた。
戦場が一瞬だけ静かになった。
リョウとタウロスも動きを止める。
フェイズのナイフが下がる。
ポイゾナスはスプロケットを抱えている。
誰もすぐには答えられなかった。
陽名が一歩進む。
何も起きない。
重力も変わらない。
光も曲がらない。
音も消えない。
ただ、一人の少女が歩いている。
アビゲイルの〈T.A.S.S.〉だけが追跡に失敗した。
【TRACKING……】
【FAILED】
再取得。
【PERSON DETECTED】
【ID:UNRESOLVED】
陽名はアビゲイルの横を通った。
止めようと思えば止められる。
だが。
アビゲイルは手を伸ばさなかった。
「……陽名」
「うん」
「自分で決めて」
陽名が少しだけ頷く。
ポイゾナスの前まで歩く。
スプロケットを見る。
「痛い?」
「わかんない……」
スプロケットの声は弱い。
「ぼくじゃないのが……いっぱい入ってくる」
陽名が首を傾げる。
「わたしも、前はそうだった」
スプロケットが目を開く。
「え……?」
「どれが、わたしか分からなかった」
短い言葉。
陽名はスプロケットの顔を見ながら手を伸ばした。
その指先が震える手へ近づく。
「待って」
ポイゾナスが反射的に言う。
陽名の手が止まる。
「危ない?」
ポイゾナスは答えられない。
スプロケットが、自分から手を伸ばした。
「……ぼくが、触る」
「スプロケット」
「確かめたい」
ポイゾナスを見る。
「ぼくが」
その一言で。
ポイゾナスは手を離さなかった。
ただ、止めるのをやめた。
スプロケットが腕を上げた。
震える指先が陽名の指先に触れる。
⸻
【REFLOG:Δ.H1】
【TARGET:Δ.H0】
【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】
【PHYSICAL CONTACT:CONFIRMED】
【《CYBER RESONANCE》:ACTIVE】
【CROSS-SYSTEM LINK:UNSTABLE】
【PERSON ID:UNRESOLVED】
【TRACE SYNCHRONIZATION:FAILED】
⸻
「っ――!」
スプロケットの身体が跳ね、支えていたポイゾナスの腕に重みが掛かった。
ゴーグルの画面が白く染まる。
だが、外の空間は変わらない。
地面も。
重力も。
音も。
異常を起こしたのは、接続側だった。
スプロケットの《サイバー・リゾナンス》。
電子信号。
記憶。
感情。
誰かの声。
区別できない大量の情報が流れ込む。
「多い……!」
スプロケットが叫ぶ。
「多すぎる……!」
陽名が手を離そうとする。
だが。
スプロケットの指が掴んだ。
「待って……!」
「でも、痛い」
「分かりそうなんだ……!」
「スプロケット!」
タウロスが駆け寄る。
《ブルホーン》を解除する。
「離せ!」
「嫌だ!」
タウロスの足が止まる。
スプロケットが初めて強い声を出した。
「ずっと分かんなかったんだ!」
呼吸が乱れる。
「なんでぼくに聞こえるのか!」
「そんなもん後でいい!」
「ぼくには後じゃない!」
ノイズ。
声。
映像。
知らない感情。
それらがゴーグルの奥で重なる。
『……』
『……な……』
『……名前……』
『……帰り……』
『……忘れ……』
「やめろ!」
タウロスがスプロケットの肩を掴む。
「お前が消えるぞ!」
「ぼくは――」
スプロケットの声が詰まる。
「ぼくは、誰……?」
陽名の表情が変わった。
初めて。
はっきりと心配していた。
「スプロケット」
「……」
「名前」
スプロケットが震える。
「それ、あなたの名前?」
「……そう」
「誰が呼ぶの?」
タウロスが答えた。
「俺たちだ」
ポイゾナス。
「私も」
フェイズがナイフをしまう。
「嫌ってほどな」
オラトリオが水晶玉を抱く。
「呼ばれた名は、戻る道になる」
スプロケットの喉から息が漏れ、次を吸い込めなくなる。
「ぼく……」
タウロスが肩を掴んだまま言う。
「スプロケット」
ポイゾナス。
「スプロケット」
フェイズ。
「スプロケット」
陽名も言った。
「スプロケット」
ノイズの中で。
その名前だけが残った。
⸻
【OBSERVATION NODE:MEERA MALIK】
〈レイヴン〉内部。
ミーラは端末へ流れ込むデータを見ていた。
【TARGET:HINA】
【SECONDARY SUBJECT:SPROCKET】
【VISUAL:CONFIRMED】
【THERMAL:CONFIRMED】
【PHYSICAL CONTACT:CONFIRMED】
【PERSON ID:UNRESOLVED】
【CYBER RESONANCE:ABNORMAL EXPANSION】
【CROSS-SYSTEM SYNC:UNSTABLE】
「違う……」
ミーラが呟く。
重力異常はない。
空間歪曲もない。
熱源異常もない。
陽名が何かを放出した痕跡もない。
変化しているのは。
スプロケット側。
「陽名が攻撃してるんじゃない」
ジャンが車外から通信する。
『何が起きてます?』
「接続している側が拾いすぎてる」
『《サイバー・リゾナンス》?』
「たぶん」
ミーラは即座に訂正する。
「いいえ。まだ断定できない」
画面を見る。
陽名の記録。
スプロケットの能力反応。
本来なら同じ分類へ入らない二つ。
それが接触点で重なっている。
「違う系統が……繋がった?」
ミーラの指が止まる。
「そんなはず……」
言葉を止める。
そんなはずがない。
そう言い切れるだけの答えを、自分はまだ持っていない。
端末へ新しい警告。
【EXTERNAL DISPLAY CONTROL:OVERRIDDEN】
「……また」
⸻
高架下。
壊れていた公共案内ディスプレイが一斉に点灯した。
ジャンが拳銃を上げる。
「外部侵入!」
アビゲイルが陽名とスプロケットの前へ戻る。
映像が出た。
赤い髪。
赤い瞳。
ラズ。
「いやぁ」
画面越しに、ゆっくり拍手する。
「これは予想より面白い」
フェイズが睨む。
「お前……!」
「待って待って」
ラズが両手を上げる。
「僕も全部分かってたわけじゃないよ」
視線がスプロケットへ向く。
次に。
陽名。
「直接会わせれば何か起きるとは思った」
ラズの笑みが薄くなる。
「でも――」
端末上に流れる異常な接続ログを見る。
「これは、僕のΩにもなかったな」
陽名はラズの映像を見なかった。
スプロケットの手を見ている。
スプロケットも。
ラズを見ていない。
自分を呼ぶ四人の声を聞いている。
「スプロケット」
タウロス。
「スプロケット」
ポイゾナス。
「スプロケット」
フェイズ。
「スプロケット」
陽名。
ラズの声より。
観測ログより。
Ω計画より。
その名前の方が、今の彼女には近かった。
【REFLOG:Δ.H1】
【TARGET:Δ.H0】
【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】
【CONTACT:ACTIVE】
【IDENTITY COHERENCE:UNSTABLE】
【TRACE:CONTINUED】


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