第1部『404_NOT_FOUND』INTERRUPT_05|TRACKING

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クロス・バグ三部作(絶賛連載中)

INTERRUPT_05|TRACKING

 旧A.R.K.保守層へ入った四人の現在位置は取得できていなかった。

【CURRENT POSITION:UNRESOLVED】
【LEGACY NODE RESPONSE:CONTINUOUS】
【SUBJECT COUNT:4】

 映像はない。

 個人認証も返らない。

 現在の都市管理網から削除された経路で停止設備だけが順番に起動していた。

【LEGACY NODE 04:STANDBY】
【LEGACY NODE 05:ACTIVE】

 23秒後に反応が移る。

【LEGACY NODE 05:STANDBY】
【LEGACY NODE 06:ACTIVE】

 三浦主任が別の画面を開いた。

「これ以上は設備記録だけでは追えません」

 オリヴィアはクロニアスへ割り当てた時間異常記録を表示した。

【AUDIT TAG:TEMPORAL-01】
【NAME CORRELATION:CHRONIAS/HIGH】
【REFERENCE MATCH:MULTIPLE】
【BIOLOGICAL SUBJECT:1】

 位置情報だけを見れば同じ人物が複数存在する。

 古い音声記録が残っている。

 過去の通過記録も残っている。

 停止済み設備にも認証反応がある。

 現在時刻と一致しない記録までクロニアスとして返される。

 オリヴィアは位置情報を追跡条件から外した。

【POSITION-BASED TRACKING:DISABLED】

 三浦主任が振り向いた。

「切りますか?」

「位置だけ」

「代わりは?」

 オリヴィアはトーキョー・シティの全体図を開いた。

「都市を使います」

 監査盤の表示が切り替わった。

【SPECIAL AUDIT/RESOURCE ALLOCATION:EXPANDED】
【PRIMARY SUBJECT:SPROCKET】
【SUBJECT GROUP:4】
【CITY SYSTEM CORRELATION:AUTHORIZED】

 三浦主任が表示を確認した。

「復興監査側の処理能力が落ちます」

「生命維持と炉心管理には触らないで」

「交通と物流は?」

「使えるものは全部」

 オリヴィアは複数の職員へ処理を割り振った。

「旧保守層へ接続できるANIノードを抽出して」

「中央系統は?」

「除外」

「汚染判定済みもですか?」

「除外して」

「独立ノードは?」

「残して」

「再接続しますか?」

「しない」

 別の職員が端末を確認した。

「地下交通の局地ANIが三系統生きています」

「交通管制を維持したまま監査系へ接続」

「教育区の行動分析ノードも残っています」

「追加して」

「医療系は?」

「患者管理中の系統には触らないで」

「閉鎖施設は?」

「生命兆候センサーだけ借りる」

 複数の処理が同時に走り始めた。

【ANI CENTRAL CONTROL:EXCLUDED】
【ANI ISOLATED NODES:CONNECTED】
【TRAFFIC SENSOR NETWORK:AVAILABLE】
【LOGISTICS SENSOR NETWORK:AVAILABLE】
【CLOSED MEDICAL SENSOR NETWORK:AVAILABLE】
【CIVIL AUTHENTICATION:PARTIAL】
【POWER MANAGEMENT LOG:AVAILABLE】
【EMERGENCY SYSTEM LOG:AVAILABLE】

 一元的な都市管理はすでに崩壊している。

 区画ごとに残された機能だけは生きていた。

 オリヴィアはそれらを一つの管理系へ戻さなかった。

 壊れた状態のまま利用する。

「映像は優先しなくていい」

 三浦主任が手を止めた。

「顔を取らないんですか?」

「取れれば使う」

「優先するものは?」

「通過した事実」

 オリヴィアは追跡条件を追加した。

【TRACKING INPUT】
【DOOR STATE CHANGE】
【FLOOR LOAD CHANGE】
【AIR PRESSURE CHANGE】
【POWER DRAW】
【EMERGENCY LIGHT ACTIVATION】
【MAINTENANCE TERMINAL RESPONSE】
【LIFE SIGN DETECTION】
【LOGISTICS WEIGHT SENSOR】
【LOCAL AUTHENTICATION】

「一人ずつ見る必要はない」

「条件は?」

「5秒以内に連続した反応をつないで」

「人数判定は?」

「重量と生体反応と開閉時間で相関を取って」

 三浦主任が処理を流した。

 地図上に小さな点が現れた。

 一つ目が消える前に二つ目が現れる。

 二つ目が消える前に三つ目が反応する。

 これまでは独立していた設備反応が連続し始めた。

【MOVEMENT CORRELATION:ESTABLISHED】
【SUBJECT GROUP:4】
【CURRENT POSITION:UNRESOLVED】
【MOVEMENT VECTOR:PARTIAL】

「追えます」

 オリヴィアは地図を拡大した。

「まだよ」

 点は線になり始めていた。

 目的地までは出ていない。

 旧観測区画周辺で四人分の反応が停止した。

【SUBJECT GROUP:4】
【MOVEMENT:STOPPED】
【LEGACY OBSERVATION SECTOR】

 7分が経過した。

 9分を越えても移動反応は戻らない。

 11分後に新しい生命兆候が加わった。

【BIOLOGICAL SUBJECT:NEW】
【LIFE STATUS:ACTIVE】
【PHYSICAL CONDITION:UNSTABLE】

 オリヴィアはクロニアスの現在生体候補と照合した。

【CHRONIAS CORRELATION:HIGH】

 表示を固定する。

 40秒後に床荷重が変化した。

【SUBJECT COUNT:5】
【SUBJECT 05/INDEPENDENT WALKING:LOW】
【ASSISTED MOVEMENT:PROBABLE】

 三浦主任が画面を見た。

「増えました」

「そうね」

「クロニアスですか?」

「その可能性が一番高い」

 オリヴィアはスプロケットの監査項目を更新した。

【SUBJECT:SPROCKET】
【CHRONIAS SEARCH:HIGH CORRELATION】
【RECOVERY ASSESSMENT:HIGH】

 十二日前から残っていた疑問の一つに答えが出た。

 スプロケットがトーキョー・シティへ戻った理由の一つはクロニアスだった。

「一つ分かったわね」

 三浦主任が監査優先度を表示した。

「戻しますか?」

「戻さない」

 返答はすぐに出た。

 三浦主任は処理を続けた。

 オリヴィアは監査継続理由を開いた。

【AUDIT CONTINUATION REASON:MISSION SCOPE UNRESOLVED】

 記録を保存した。

 五人の反応が再び移動を始めた。

 旧設備の起動が続く。

 換気制御が反応する。

 非常照明が点灯する。

 地下物流線の荷重センサーも順番に変化した。

 独立していた情報が一つの方向へ収束する。

【SUBJECT COUNT:5】
【MOVEMENT VECTOR:CONFIRMED】
【DESTINATION CORRELATION:CENTRAL LOGISTICS/HIGH】

 三浦主任が中央物流区画を開いた。

「クロニアスを見つけたのに戻る?」

「中央中継設備」

 オリヴィアは中央物流センターの稼働状況を呼び出した。

【CENTRAL RELAY:ACTIVE】
【EXTERNAL LINE:PARTIAL】
【BIOLOGICAL POSITION RELAY:AVAILABLE】

 クロニアスの記録は過去と現在が混在している。

 現在の身体を外部へ伝えるなら生体座標を現行設備から送る方法が使える。

【PROBABLE OBJECTIVE:CURRENT BIOLOGICAL POSITION RELAY】
【TRANSMISSION DESTINATION:UNRESOLVED】

「帰る準備ですね」

「可能性は高い」

 三浦主任が五人の経路を拡大した。

「中央へ着く前に確保しますか?」

 オリヴィアは数秒だけ答えなかった。

 スプロケットはすでに捕獲対象になっている。

 条件は生存回収だった。

【SUBJECT:SPROCKET】
【CAPTURE STATUS:ACTIVE】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】

「まだ」

 三浦主任がオリヴィアを見る。

「理由は?」

「戻ってきた理由は分かった」

 オリヴィアは旧A.R.K.設備の反応履歴を重ねた。

「彼女へ反応する理由は分かっていない」

 現場配置図を開く。

 トーキョー・シティ内部では複数の実働部隊が活動していた。

 復旧技術班は送電線と非常設備の復旧を進めている。

 調査班は研究施設と封鎖区画を確認している。

 無人機運用班は崩落区域を測量している。

 医療搬送班は残存市民の回収を続けている。

 世界政府防衛部隊は確保済み区画の境界を維持していた。

 ネクス・ハウンズも別任務を継続している。

 オリヴィアは現場資産を一つの画面へ集めた。

【FIELD ENGINEERING:ACTIVE】
【INVESTIGATION TEAMS:ACTIVE】
【UNMANNED OBSERVATION:ACTIVE】
【MEDICAL EXTRACTION:ACTIVE】
【SECURITY PERIMETER:ACTIVE】
【NEX HOUNDS:ACTIVE】

 全員をスプロケットへ向ける必要はない。

 既存任務の位置を変えるだけで観測点を増やせる。

「中央物流北側の復旧作業を前倒し」

「現在の作業順位は第六です」

「第三へ変更」

「理由は?」

「中継設備の保全」

 オリヴィアは別回線を開いた。

「地下物流線の無人機を二系統だけ中央方面へ移して」

「崩落調査ですか?」

「そのまま継続して」

 次の回線を開く。

「医療搬送班は中央物流から二ブロック外で待機」

「救助要請はありません」

「出た時に間に合えばいい」

 三浦主任が防衛部隊の配置を表示した。

「防衛部隊は?」

「現在位置を維持」

「中央へ寄せませんか?」

「寄せない」

 三浦主任が五人の推定経路を見る。

「囲わない?」

「囲えば行動が変わる」

 オリヴィアは移動線を見た。

「見たいのは何をするかよ」

 現場配置が静かに変わり始めた。

 復旧作業は継続している。

 調査任務も継続している。

 医療搬送も止まっていない。

 無人機も本来の測量を続けている。

 配置だけが五人の推定経路へ近づいていた。

【DIRECT CONTAINMENT:NONE】
【OBSERVATION DENSITY:INCREASED】
【ROUTE COVERAGE:EXPANDED】

 オリヴィアはネクス・ハウンズの任務条件を開いた。

【NEX HOUNDS】
【CURRENT MISSION:RETRIEVAL】
【SPROCKET/DIRECT PURSUIT:HOLD】
【INTERCEPTION READINESS:RAISED】

 短い通信が入った。

『条件変更を確認』

 リッジだった。

「現在任務は継続して」

『中央へ寄せる必要は』

「今はない」

『了解』

 通信が切れた。

 リッジは理由を求めなかった。

 必要な時だけ動く。

 オリヴィアはその距離を扱いやすいと判断していた。

 五人の追跡と並行して旧認証履歴の照合も続いていた。

「監査官」

 担当職員がオリヴィアを呼んだ。

「何?」

「スプロケットの認証です」

 オリヴィアが画面を開いた。

【SUBJECT:SPROCKET】
【LEGACY AUTHORIZATION RESPONSE:DETECTED】
【ACCESS REQUEST:NONE】
【LEGACY HANDSHAKE:ACCEPTED】

 指が止まった。

「もう一度」

「再照合済みです」

【CURRENT WORLD GOVERNMENT AUTH:NO MATCH】
【LEGACY AUTHORIZATION:PARTIAL MATCH】
【AUTHORIZATION ORIGIN:UNRESOLVED】

「本人から認証要求は?」

「ありません」

 職員が履歴を表示した。

「旧保守扉への接触時に応答しています」

 別の履歴が開く。

「中継設備を参照した時にも下位層から応答があります」

「下位層?」

「通常監査では読めません」

 新しい項目が表示された。

【RESTRICTED PATH:DETECTED】
【ACCESS LEVEL:OUTSIDE PUBLIC AUDIT】

 オリヴィアの表情は変わらなかった。

「照合を止めて」

「まだ下があります」

「だから止めて」

 職員の手が止まった。

「現在の結果は監査記録へ残しますか?」

「そこまででいい」

「下位層は?」

「私が引き取る」

 オリヴィアは自身の認証を通した。

【PUBLIC AUDIT:CLOSED】
【RESTRICTED AUDIT:TRANSFERRED】
【PUBLIC RECORD:LIMITED】

 三浦主任が隣の画面から消えた処理窓を見た。

「こちらも外れますか?」

「ええ」

「了解」

 質問はなかった。

 共有監査画面から一つの処理だけが切り離された。

 オリヴィアの端末に別の認証層が開いた。

 世界政府の監査画面とは構造が違う。

 部署名は表示されない。

 担当者名も存在しない。

【RESTRICTED MANAGEMENT LAYER】
【AUTHORIZATION:ACCEPTED】

 オリヴィアはスプロケットの反応を再照合した。

【SUBJECT:SPROCKET】
【REGISTERED ACCESS HOLDER:NO】
【LEGACY AUTHORIZATION:PARTIAL MATCH】
【INHERITED AUTH POSSIBILITY:UNRESOLVED】

 本来なら応答しない管理経路が一つ残っていた。

【PROJECT INTER-FACE】
【EXTERNAL ACCESS PATH:RESPONSE DETECTED】
【DIRECT ACCESS:NONE】
【REACHABILITY:POSSIBLE】

 オリヴィアは画面を見たまま動かなかった。

 スプロケットはこの領域を探していない。

 名称を照会した記録もない。

 アクセス要求も出していない。

 クロニアスを救出して帰還するために旧設備を使っているだけだった。

 それでも経路は応答している。

「知らないのに?」

 答える者はいない。

 オリヴィアは再照合を実行した。

【ACCESS ATTEMPT:NONE】
【SYSTEM RESPONSE:VALID】
【CAUSE:UNRESOLVED】

 同じ結果が返った。

 オリヴィアはトーキョー・シティ復興監査の画面を端へ移した。

 復旧率は更新され続けている。

 送電率も動いている。

 隔壁稼働率も変化している。

 市民回収数も増えていた。

 中央画面にはスプロケットの監査記録だけが残った。

 オリヴィアは捕獲条件を開いた。

【SUBJECT:SPROCKET】
【CAPTURE STATUS:ACTIVE】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【DIRECT PURSUIT:HOLD】

 未知の旧認証が確認された。

 制限管理層へ到達する可能性も生まれた。

 保全対象へ接近する危険性も否定できない。

 追跡を捕獲へ切り替える理由はすでにある。

 オリヴィアは新しい条件を追加した。

【CONTAINMENT TRIGGER:RESTRICTED LEGACY RESPONSE】
【INTERCEPTION READINESS:ACTIVE】
【OBSERVATION:CONTINUED】

 即時捕獲は選ばなかった。

 認証経路をもう一度確認すれば再現性を判断できる。

 オリヴィアはそう処理した。

 監査理由にも同じ判断を登録する。

【CONTINUED OBSERVATION REASON:AUTHENTICATION REPRODUCIBILITY】

 理由として間違ってはいない。

 オリヴィアは記録を保存した。

 都市監視網の優先順位も変更する。

【CITY AUDIT PRIORITY:SPROCKET】
【ANI SENSOR CORRELATION:MAXIMUM AVAILABLE】
【LEGACY NODE MONITORING:EXPANDED】
【FIELD OBSERVATION:EXPANDED】
【NEX HOUNDS/INTERCEPTION:READY】

 トーキョー・シティの一部がスプロケットを中心に組み替えられた。

 本人はまだ知らない。

 オリヴィアはMr.Xとの同期項目を開いた。

【SYNC TARGET:Mr.X】
【SUBJECT:SPROCKET】
【LEGACY AUTH ANOMALY:ATTACHED】
【PROJECT INTER-FACE RISK:ATTACHED】
【CAPTURE CONDITION UPDATE:ATTACHED】

 所見欄は空白のままだった。

 オリヴィアは確認できた事実だけを同期待機へ送った。

【SYNC STATUS:QUEUED】

 旧保守層で次の設備が起動した。

【LEGACY NODE 07:ACTIVE】

 五人の移動線が中央物流センターへ伸びた。

 オリヴィアは追跡画面を閉じなかった。

「もう少し見ましょう」

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