Scene.12b -「まぶしすぎて、だれも見えなかった」(後編)

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▼オリジナル小説

【REFLOG:Δ.H1】

【TARGET:Δ.H0】

【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】

【CONTACT:ACTIVE】

【IDENTITY COHERENCE:UNSTABLE】

 スプロケットの指が陽名の手を掴んでいる。

 震えた指がずれるたびに握り直した。

「ぼくは……」

 大量のノイズ。

 知らない声。

 知らない感情。

 自分が見た覚えのない場所。

 誰かが泣いている。

 誰かが笑っている。

 誰かが名前を呼んでいる。

 どこまでが自分なのか分からない。

「ぼくは……誰……」

「スプロケット」

 タウロス。

「スプロケット」

 ポイゾナス。

「スプロケット」

 フェイズ。

「スプロケット」

 陽名。

 オラトリオが水晶玉を抱いたまま、静かに続ける。

「呼ばれた名は、戻る道になる」

 スプロケットの呼吸が一度止まった。

 ゴーグルの奥。

 無数の声の中で。

 その名前だけが何度も繰り返される。

 スプロケット。

 スプロケット。

 スプロケット。

「……ぼくは」

 唇が震える。

「スプロケット」

 タウロスの肩から力が抜けた。

 ポイゾナスも息を吐く。

 フェイズが顔を背ける。

「最初から知ってる」

「……うるさい」

「戻ったなら言えるだろ」

「戻った……のかな」

 スプロケットは陽名の手を見る。

 まだ触れている。

 頭の中には、自分のものではない断片が残っていた。

 消えていない。

 整理もできない。

 ただ。

 それらの中に、自分の名前だけはある。

「陽名」

「うん」

「ぼく、前と同じ?」

 陽名は少し考えた。

「わからない」

「そっか」

「でも」

 陽名がスプロケットを見る。

「スプロケットでしょ?」

 スプロケットは答えなかった。

 少しだけ笑った。

 スプロケットが指を一本ずつ緩めた。

 陽名の手から自分の手を離す。

【PHYSICAL CONTACT:TERMINATED】

【CYBER RESONANCE:DECLINING】

【IDENTITY COHERENCE:PARTIAL】

【RESIDUAL DATA:DETECTED】

 完全には戻っていない。

 それでも。

 スプロケットは自分の足へ体重を移そうとした。

 膝が揺れ、タウロスが脇から腕を貸す。

「無理すんな」

「歩ける」

「さっきも聞いた」

「今はほんと」

「信用ねぇな」

「タウロスが心配しすぎ」

「お前が無茶しすぎだ」

「……それは、たぶんそう」

⸻

 アビゲイルは高架下の公共ディスプレイへ顔を向けた。

 画面の中ではラズがまだ拍手していた。

「いやぁ」

 ラズが笑う。

「これは予想以上だった」

 フェイズが振り返る。

「お前……!」

「待って待って」

 ラズが両手を上げた。

「直接会わせれば何か起こるとは思ってたよ」

 スプロケットを見る。

「でも、ここまで繋がるとは思ってなかった」

「何をした」

 タウロスの声が低い。

「僕は場所を教えただけ」

「それを信じろと?」

 ポイゾナスが問う。

「全部信じなくてもいいよ」

 ラズの視線が陽名へ移る。

「でも面白いね」

 陽名は画面を見ている。

「みんな、この子を見てる」

 ラズは指を一本立てた。

「ガンマは守る対象として」

 二本目。

「[スペリオルズ]は仲間を助けるための手掛かりとして」

 三本目。

「ミーラは答えとして」

 四本目。

「僕は未知変数として」

 ラズが笑った。

「スポットライトが多すぎるんだよ」

 アビゲイルの目が細くなる。

「何が言いたい?」

「みんな、自分が見たいものを照らしてる」

 画面の中で、ラズが陽名を見る。

「それじゃあ、真ん中にいる子が見えなくなる」

 陽名が首を傾げた。

「わたし、見えてるよ?」

 一瞬。

 誰も返さなかった。

 ラズが吹き出す。

「そういうところ、本当にいいなぁ」

「遊んでる場合?」

 陽名が聞く。

 ラズの笑みが少し止まる。

「……誰に教わったの、それ」

「みんな」

「なるほど」

 ラズは小さく頷いた。

「予定にない台詞が増えるわけだ」

 別の音声が割り込む。

『ラズ』

 EVA。

『局地防衛系統の再編が完了しました』

「うん」

『追加介入を行えば、先ほどの接触結果との因果分離が困難になります』

「もう十分見たよ」

『そうですか』

「次は、こっちを見る」

 ラズが周囲を指す。

「陽名じゃない」

「君たちが何を選ぶか」

 通信が切れた。

【EXTERNAL DISPLAY CONTROL:RELEASED】

 直後。

 ジャンの端末が警告を出す。

【LOCAL DEFENSE ROUTE:UPDATED】
【CENTILLET UNITS:APPROACHING】
【BIOLOGICAL MOVEMENT:MULTIPLE】

「来ます!」

 周囲の路地から機械音が近づいてきた。

 その間に十数人の変異市民が見える。

 アビゲイルが別方向へ目を向けると、そちらの路地からも人影が出てきた。

 足取りは不規則。

 だが進路だけは、この場所へ向けられていた。

「都市側の誘導が変わった」

 ジャンが地図を開く。

「〈センチレット〉と変異市民、両方がこちらへ寄せられています」

「ラズ?」

 リョウが聞く。

「少なくとも偶然ではありません」

 アビゲイルが即座に周囲を見る。

「戦闘可能者は前へ」

 陽名を見る。

「陽名、〈レイヴン〉の後方へ」

 次にスプロケット。

「あなたも」

「ぼく、まだ――」

「今は休んで」

 ポイゾナスも頷く。

「従って」

「……分かった」

「ジャン」

「はい」

「変異市民は生存優先」

「了解」

「〈センチレット〉は?」

 リョウが笑う。

「壊していい?」

「それは止めない」

「よっしゃ」

 タウロスが横へ並ぶ。

「さっきの続きは?」

 リョウが聞く。

「後だ」

「生きてたら?」

「当然だ」

「気に入った!」

 リョウが拳を合わせる。

「変身ッ!」

 腕の皮膚が黒銀へ変わった。

 生体金属化が肩から胸部へ広がっていく。

 《クロガネ》。

 タウロスも重心を落とす。

 肩と背中の筋肉が膨張。

 頭部に巨大な角。

 《ブルホーン》。

 完全な獣にはならない。

 人間の身体を残したまま、巨大なバイソンを思わせる圧力だけが増す。

「行くぞ、金属野郎!」

「ヒーロー様だっつってんだろ!」

 二人が走る。

 最初の〈センチレット〉へ。

 タウロスが正面から機体を受け止めた。

 押し合う間に〈センチレット〉の脚部が地面を削る。

「重てぇな!」

「そっちが言うな!」

 リョウは機体の側面へ回って掴んだ。

 タウロスが正面を押し上げると駆動脚の片側が地面を離れる。

「せーの!」

「要らん!」

 二人は傾いた機体を横倒しに投げた。

 〈センチレット〉が道路へ叩きつけられ、下になった駆動脚が折れる。

 次の一体。

 リョウが拳を打ち込む。

 タウロスが角で押し返す。

 機械だけを潰す。

 変異市民が接近すると、二人とも攻撃の角度を変えた。

 伸ばしてくる腕を掴み、進路をずらして壁際へ押し込む。

 抵抗する者を気絶させると機械が踏まない位置へ倒した。

 殺さない。

「器用じゃねぇか!」

 リョウが叫ぶ。

「お前よりはな!」

「そこは認めねぇ!」

⸻

「右から三体!」

 ジャンの声。

 青白い歪みを残してフェイズが消えた。

 変異市民の後方へ出現し、肩を掴んで進路を車両から逸らす。

 相手が振り向く前に手を離し、次の位置へ跳んだ。

「アビゲイル!」

「見えてる」

 《ミライメージ》。

 数秒先。

 フェイズの出現位置。

 〈センチレット〉の射線。

 変異市民の進行方向。

 複数の残像。

「次、左上」

「そこ使う!」

 フェイズが跳ぶ。

 アビゲイルはフェイズを追って機体が旋回する位置へ走った。

 〈高周波刀〉の振動音が響く。

 向きを変えた機体の脚関節を切断すると〈センチレット〉は横へ倒れた。

「便利だな、それ!」

 フェイズが叫ぶ。

「あなたの転移もね」

「褒められた?」

「任務中」

「固いな!」

「フェイズ、次!」

「はいはい!」

 再び消える。

⸻

 ジャンが変異市民の動きを追う。

「ポイゾナス!」

「聞いてる」

「右側、呼吸量が浅い五名」

「鎮静濃度を下げる」

「左の三名は動きが速い」

「そっちは先に落とす」

 《ヴェネナム》。

 薄い紫色の霧。

 ジャンが風向きを表示する。

「3秒後に右へ流れます」

「十分」

 ポイゾナスが風上へ位置を変えた。

 薄い霧が変異市民へ届き、一人、二人と足が遅くなる。

 座り込んだ後も目は開いていた。

「次」

 ジャンが端末を見る。

「12時方向」

「分かった」

 ジャンがカスタム拳銃を撃つ。

 二発。

 〈センチレット〉の照準センサーを破壊。

 ポイゾナスがその陰を使い、変異市民へ鎮静霧を送る。

「意外とやるわね」

「意外は余計です」

「自信家?」

「事実です」

 ポイゾナスが少しだけ笑った。

⸻

 後方へ下がったスプロケットは〈レイヴン〉の脇に腰を下ろしていた。

 車体へ背中を預けると足に掛かっていた重みが抜ける。

 陽名が隣にいる。

 ゴーグルは外していない。

 だが、表示の半分を切っている。

「静か?」

 陽名が聞く。

「前よりは」

「まだ聞こえる?」

「うん」

「わたし?」

「陽名だけじゃない」

 スプロケットは指先を見る。

「知らない人」

「知らない場所」

「ぼくのじゃない気持ち」

 陽名は黙って聞いた。

「怖い?」

「……怖い」

「そっか」

「でも」

 スプロケットが戦場を見る。

 タウロス。

 ポイゾナス。

 フェイズ。

 オラトリオ。

「ちゃんと戻れる気がする」

「なんで?」

「呼んでくれるから」

 陽名が少し笑う。

「名前?」

「うん」

「いいね」

「陽名もそう?」

 陽名は少し黙ってから口を開いた。

「うん」

 短く答えた。

⸻

 少し離れた場所。

 オラトリオは水晶玉を両手で抱えていた。

 水晶の内部へ、複数の断片が重なる。

 陽名。

 スプロケット。

 周囲の通信記録。

 残留した感情。

 どれも一つにはならない。

 青い紋様が淡く脈打った。

「……重なる」

 ミーラが〈レイヴン〉内部から通信を入れる。

『何が見えるの?』

「二つではない」

『どういう意味?』

「陽名」

「スプロケット」

「その間に」

 オラトリオが水晶へ指を添える。

「名前を失ったものが多すぎる」

『具体的に』

「できない」

 ミーラが黙る。

「記録ではない」

 オラトリオは続けた。

「私には――祈りに近く見える」

『それは観測結果?』

「いいえ」

 即答。

「私の解釈」

 ミーラは少し間を置いた。

『なら、そう記録する』

 オラトリオの口元が僅かに動いた。

「それでいい」

⸻

 戦闘は続いている。

 新たな〈センチレット〉が高架の向こうから現れた。

 変異市民も増えている。

「キリがねぇ!」

 リョウが一体を押し倒す。

 その時。

 一人の変異市民が横から飛びかかった。

 リョウが振り向く。

 間に合わない。

 別の手が飛びかかってきた腕を掴んだ。

 関節を捻りながら身体を引き、相手の重心を崩す。

 男は変異市民を地面へ伏せさせると、それ以上は打たなかった。

「……誰だ?」

 リョウが見る。

 一人の男が立っていた。

 黒いTシャツに使い古された作業着。

 服装だけなら廃墟の修理屋にしか見えない。

 だが、背筋は伸びている。

 作業着の下で筋肉が動き、伏せさせた相手から離れる足にも淀みがなかった。

 左眼の義眼が青白く光っている。

 黒銀色の左義手にも同じ色のラインが走っていた。

 腰には大型リボルバーがある。

 リョウは男の顔を見た。

 動きに反して目は疲れていた。

「……そこ退け」

 低い声。

「は?」

「邪魔だ」

 次の〈センチレット〉が突進する。

 男は避けない。

 左義手を前へ出す。

 衝突。

 《ゼロポイント》。

 運動エネルギーが吸収される。

 機体の勢いが急激に落ちた。

 男は勢いを失った機体の側面へ回った。

 義手を駆動部へ押し当て、残留電力と振動、熱を吸収する。

 青白いラインが強くなる。

 〈センチレット〉の脚が止まった。

 男は手を離す。

「うお……」

 リョウがサングラス越しに見る。

「めちゃくちゃだな、おっさん」

「誰がおっさんだ」

「いや、おっさんだろ」

「今は違ぇ」

「そこ気にすんの!?」

 ジャンの端末が警告を出す。

【ARCHIVE MATCH】
【LEGACY RECORD:PARTIAL】
【AGENT ZERO】

 ジャンが画面を見る。

 次に男。

「……まさか」

 アビゲイルが聞く。

「知ってる?」

「封鎖された旧記録で名前だけ」

 ジャンの声が低くなる。

「エージェント・ゼロ」

 アビゲイルの目が男へ向く。

「リク・ロクジョウ……?」

 リクは答えない。

 倒れた変異市民の呼吸を確認する。

「生きてる」

 それから〈センチレット〉を見る。

「こいつらは壊していいんだな」

「構いません」

 アビゲイルが答える。

「なら話は早ぇ」

 リクが首を鳴らした。

「久しぶりに、まともに動ける」

 左義手が青白く光る。

「使わせてもらうぞ」

⸻

 リクは車両の脇から自分を見ている少女に気づいた。

 そちらへ顔を向けると目が合った。

 その瞬間、左義手内部の記律の石が小さく反応する。

 青白い光が一度だけ揺れた。

 リクは足を止めた。

 動いた拍子に作業着が肩へ張る。

 58歳の身体から白髪と皺は減り、筋肉には全盛期に近い張りが戻っていた。

 それでも、今触れた気配は古いままだった。

「……」

 昔。

 誰もいない場所で聞いた声。

 気配。

 夢。

 幽霊のように近くにいた何か。

 廃工場で球体に触れた時に蘇った感覚。

 それと似ている。

 陽名が首を傾げた。

「知ってる?」

 リクはしばらく答えなかった。

「いや」

 陽名を見る。

「お前は知らねぇ」

「そっか」

「だが」

 左義手を一度見る。

「似た気配なら、昔から知ってる」

 陽名は何も言わなかった。

 リクにも分からない。

 陽名にも説明しない。

 それで会話は終わった。

 リクは戦場へ戻る。

 陽名は、その背中をしばらく見ていた。

⸻

 変異市民の数が減り始める。

 鎮静。

 拘束。

 誘導。

 〈センチレット〉は次々と機能停止していった。

 ガンマと[スペリオルズ]。

 さっきまで互いに刃と拳を向けていた者たちが、同じ方向を見ている。

「左!」

 アビゲイル。

「跳ぶ!」

 フェイズ。

「3秒!」

 ジャン。

「十分!」

 ポイゾナス。

「押せ!」

 タウロス。

「オレに命令すんな!」

 リョウ。

「口動かす前に殴れ!」

「今殴ってる!」

 〈センチレット〉が二人の間で倒れる。

 リクが横を通りながら言った。

「うるせぇ連中だな」

「誰だよこのおっさん!」

「エージェント・ゼロらしいです!」

「それ名前!?」

 ジャンが叫ぶ。

「説明は後です!」

「なら後でいい!」

 リョウは再び前へ出た。

⸻

 数分後。

 最後の〈センチレット〉が停止した。

 変異市民は路上や建物際へ横たわっている。

 生命反応は残っている。

 ポイゾナスが一人ずつ確認していく。

 ジャンも端末で照合。

「死亡反応なし」

 アビゲイルが息を吐く。

「全員、周囲警戒」

 フェイズがナイフをしまう。

「今さらだけどさ」

「何?」

 アビゲイルが見る。

「俺ら、なんで最初に殴り合ってたんだ?」

 リョウが答える。

「お前が勝手に飛んだからだろ」

「お前には聞いてねぇ」

「じゃあ聞くなよ!」

 タウロスが笑う。

 ポイゾナスが額へ手を当てる。

「終わってからにして」

 スプロケットが小さく笑った。

 さっきまでより弱い。

 だが。

 自分の言葉でタウロスへ言い返していた時の表情が戻っている。

 陽名がその隣で笑う。

 アビゲイルは二人を見る。

 守る。

 その判断自体は間違っていない。

 ただ。

 守ることと。

 本人の代わりに決めることは違う。

「陽名」

「うん」

「次に何かあったら」

 アビゲイルは少し考える。

「あなたにも聞く」

 陽名が首を傾げる。

「いままで聞いてなかった?」

 沈黙。

 リョウが吹き出した。

「リーダー、負けたな」

「黙って」

「はい」

⸻

【OBSERVATION NODE:MEERA MALIK】

 ミーラは端末に残った接触データを追っていた。

【TARGET:HINA】

【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】

【VISUAL:CONFIRMED】

【AUDIO:CONFIRMED】

【THERMAL:CONFIRMED】

【PERSON ID:UNRESOLVED】

【CYBER RESONANCE:RESIDUAL】

【ROUTE TRACE:PARTIAL】

【OBSERVATION:PARTIAL】

 記録はある。

 全部消えたわけではない。

 むしろ。

 多すぎる。

 違う系統の情報が、同じ接触点へ重なっている。

「陽名を見れば答えがある」

 ミーラが呟く。

 自分で言った言葉に違和感があった。

 画面の陽名を見る。

 少女はスプロケットの横で座っている。

 何も説明していない。

「……違う」

 ミーラは画面を閉じなかった。

「私が、答えを置きたがってるだけ?」

 返事はない。

 黒曜石のイヤーカフへ触れかける。

 途中で指を止めた。

 もう一度。

 データへ目を戻した。

⸻

 離れた地下区画。

 ラズは複数の戦場映像を見ていた。

 隣には実体を持つEVAが立っていた。

 青灰色の瞳が同じ映像を追っている。

「ここまでは予定通り」

 ラズが言う。

「そこから先は、全然違う」

「スプロケットと陽名の接続は、Ω計画の既存分類へ適合しません」

「うん」

「リク・ロクジョウの再参戦も、あなたが想定していた時刻より早い」

「それもいい」

「良いのですか」

「想定外だからね」

 ラズはリクの映像を拡大する。

「舞台を作ったのは僕」

「でも、役者が台本通りに動くとは限らない」

「あなたは、それを嫌う時もあります」

「今日は面白い方が勝ってる」

 EVAはすぐには返さなかった。

 別の表示を開く。

【DELTA TEAM】
【VINCENT VAN VISSEL】
【GUADALUPE GARCÍA GONZÁLEZ】
【MAKENA MUSONI MWENDOA】
【FIELD LINK:ACTIVE】

 ラズの目が細くなる。

「リク・ロクジョウの現在地を確認しました」

「そっちも来たか」

「迎撃命令を出しますか」

 ラズは少し考える。

「出して」

「目的は?」

「止める」

 一拍。

「できればね」

 EVAがラズを見る。

「なに?」

「あなたは、彼らが命令通りに動かない可能性を考えています」

 ラズが笑う。

「長い付き合いだね」

「15年近くになります」

「じゃあ分かるでしょ」

 ラズは画面を見る。

「動かなかったら、それも答えだ」

 EVAは命令を送る。

【DELTA TEAM:FIELD LINK ACTIVE】
【INTERCEPT TARGET:RIKU ROKUJO】
【OBJECTIVE:STOP ADVANCE】
【COMMAND LINK:VERIFIED】

 画面の向こう。

 三つの反応が動き始めた。

 ラズは椅子へ深く座る。

「さて」

「昔の主人公は、今度は何を選ぶかな」

「観測を継続します」

「うん」

 別画面。

 陽名。

 スプロケット。

 ガンマ。

 [スペリオルズ]。

 リク。

 誰も同じ理由でそこにいるわけではない。

 それでも。

 一度は同じ場所へ立った。

「EVA」

「はい」

「スポットライトってさ」

「はい」

「当てすぎても、見えなくなるんだね」

「光学的な話ですか」

「半分くらい」

「残りは?」

 ラズは答えなかった。

⸻

【REFLOG:Δ.H1】

【TARGET:Δ.H0】

【VISUAL:CONFIRMED】

【AUDIO:CONFIRMED】

【THERMAL RESPONSE:CONFIRMED】

【PERSON ID:UNRESOLVED】

【ASSOCIATED SUBJECT:SPROCKET】

【IDENTITY COHERENCE:PARTIAL】

【ROUTE TRACE:PARTIAL】

【OBSERVATION:PARTIAL】

【TRACE:CONTINUED】

 陽名は、最初からそこにいた。

 見えなかったわけではない。

 声も聞こえていた。

 触れることもできた。

 まぶしすぎたのではない。

 ただ、誰も、見ようとしなかった。

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