Epilogue

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クロス・ログ:モノクローム

Basis

 本報告は、特定対象に関する過去ログの再構成および評価を目的として作成された記録である。
 対象期間は2050年から2080年。
 パース・シティにおける最初の接触から、同都市の崩壊および後続する個体・組織・外界勢力の変遷までを対象とする。
 主観測対象は二個体。
 リク・ロクジョウ。
 コードネーム:エージェントゼロ。
 ドミネーター。
 [スペリオルズ]における中核個体。
 併せて、両者の行動およびパース・シティ崩壊から派生した事象を追跡する。
 スペリオルズの存続と組織変化。
 [アウトサイダーズ]三大勢力の成立。
 カオスメイツの発生および構成変動。
 本件は通常の防衛記録、戦術評価、勢力分析とは異なる。
 既存統計や公開記録との整合を目的とせず、行動差異、選択の分岐、それらが後続する世界構造へ与えた影響の抽出を主軸とする。
 なお、本報告は上位権限による直接指示のもと作成されている。
 発令者:Mr.X。
 指示内容:当該二個体に関する全記録の再調査、および関連事象を含めた統合。
 これに伴い、通常アクセス権限を超過するログへの参照が許可されている。
 対象には[世界政府評議会]管理下の非公開記録、[統制防衛局]および[統律特命局]の内部ログ、外界監視記録、ならびに封鎖指定データを含む。
 参照範囲は限定されていない。
 閲覧制限も一時的に解除されている。
 本報告は、現行体制下において到達可能な最大精度の記録に基づく。
 ただし、当該記録群には複数の不整合が確認されている。
 時間軸の断裂。
 同一座標における事象の重複。
 個体の生存記録と死亡記録の併存。
 独立して保存された事案間に見られる、未登録の連続性。
 これらは観測機器の誤差や情報欠落として処理可能な範囲を逸脱している。
 よって本報告では、単一時系列および既存分類に基づく再構成を行わない。
 各記録を独立した事実として保持し、その間に発生した分岐と接続を再配置する。
 本記録の作成時点は2080年。
 当該調査は、本件に関連する後続事案発生直前の段階において実施されている。
 以上。
 観測者:ジェフリー・モーガン。


Block1

【GF-00|PS-2059|臨時指揮区画|再構成】

 パース・シティの中枢指揮所は機能を失っている。

 外壁地下に設けられた輸送管理区画へ予備電源が接続され、残存する通信回線と監視映像が臨時端末へ集約されていた。

 天井照明は一定間隔で明滅し、構造材の奥から続く振動が端末の画面を揺らしている。

 表示される情報は揃っていない。

【中枢制御:応答なし】
【防衛システム:部分稼働】
【避難経路:複数区画で断絶】
【指揮系統:再編中】

 ジェフリー・モーガンは操作卓の前から動かない。

 回線を切り替えるたび、異なる区画の映像が現れる。

 崩れた居住層、停止した輸送機、消火処理の追いついていない外壁、瓦礫の間で生存者を運ぶ[統制防衛局]の兵士たち。

 どの映像にもパース・シティの全体像は残っていない。

 区画ごとの映像は存在する。位置情報も一致している。

 個別の記録としては成立しているが、それらを繋いでも一つの都市には戻らなかった。

「外縁部の反応は?」

 ジェフリーは画面を見たまま確認する。

『複数の対象が外界方向へ移動中。追跡精度が低下しています』

「スペリオルズか」

『識別済み個体と一致。ただし、全構成員の確認には至っていません』

 画面上に複数の反応が表示される。

 間隔は揃っていない。移動速度にも差がある。

 それでも進路だけは一致しており、すべてがパース・シティから離れている。

 その中心にドミネーターの反応がある。

 追撃部隊は展開されていない。

 展開可能な戦力が残っていないためではなく、追跡そのものが成立していなかった。

 位置は更新されている。速度も表示されている。

 次の瞬間、すべての反応が同時に観測範囲から消える。

【追跡対象:消失】
【原因:特定不能】

 ジェフリーは情報を保存し、別の回線へ切り替える。

「エージェントゼロは」

 応答までに間がある。

『生体反応を確認しています』

 ジェフリーの指が止まる。

「状態を出せ」

『重度の疲労および複数箇所の損傷を確認。生命維持に直接関わる数値異常はありません。ただし、対象は移動命令に応答していません』

「位置は?」

『内部区画深部。ケイト・クロス博士の最終反応地点と一致します』

 監視映像が切り替わる。

 画面の大半は粉塵で覆われ、映像補正も安定していない。

 崩れた梁と破損した配管の間に、二つの人影だけが残っている。

 リク・ロクジョウは床に膝をついている。

 その腕の中にケイトがいる。

 周囲では警報が続き、天井から細かな破片が落ちている。

 退避命令も繰り返されているが、リクは反応を示さない。

 右手には小型の金属容器が握られている。

 映像を拡大すると、表面に刻まれた二文字が確認できる。

 C.C.

「ケイトの状態は」

 ジェフリーは問いながら、すでに答えを理解している。

『生体反応なし。現地時刻において死亡を確認』

 端末へ自動入力された文字列が表示される。

【ケイト・クロス:死亡】
【回収優先度:低】

 ジェフリーは表示を見たまま数秒間動かない。

 その後、回収優先度の項目を手動で選択する。

【回収優先度:最優先】

『死亡確認済みの対象です。優先度変更には理由の入力が必要です』

「理由は必要ない」

『規定上、入力が必要です』

 ジェフリーは入力欄を開く。

 指はすぐに動かなかった。

 戦術的価値、研究資料、機密保持。

 いずれも理由として使用できるが、どれも適切ではない。

 短い文字列を入力する。

【理由:帰還対象】

「回収班を向かわせろ。二人とも連れて戻せ」

『了解』

 回線の向こうで複数の足音が重なる。

 回収班が内部区画へ進入し、携行灯の光が監視映像へ加わる。

 兵士たちはリクの位置へ近づくが、一定の距離で足を止める。

「エージェントゼロ。退避します」

 リクは答えない。

「ケイト博士はこちらで搬送します。対象を引き渡してください」

 その言葉にだけ反応する。

「……俺が運ぶ」

 声は低く、呼吸に乱れが残っている。

「ですが、あなたも処置が必要です」

「歩ける」

 リクはスキットルを服の内側へ収める。

 右腕をケイトの背中へ回し、左の義手で膝の裏側を支える。

 金属の指は衣服を傷つけない位置で止まり、そのまま身体を持ち上げる。

 立ち上がった直後、足元が一度揺れる。

 回収班が支えようとするが、リクは接触される前に姿勢を戻す。

 ケイトの身体だけは動かさない。

「進路を確保します」

「頼む」

 それだけを返し、リクは歩き始める。

 画面の向こうで携行灯が移動する。

 白衣に付着した血が光を受け、瓦礫の影へ隠れ、再び現れる。

 ジェフリーは映像から目を外さない。

 この時点で、戦闘記録上のエージェントゼロに対する命令は解除されていない。

 防衛可能な区画も残され、敵性反応の再出現に備える必要もあった。

 それでもリクは戦場へ戻らない。

 ケイトを運ぶことだけを優先している。

 命令違反として処理することはできる。

 戦術行動の放棄として記録することも可能だった。

 ジェフリーは該当項目を開かない。

 別の画面には、すでに公表準備へ入った暫定報告が表示されている。

【パース・シティ大規模テロ事案】
【実行主体:スペリオルズ】
【防衛結果:失敗】
【都市機能:喪失】

 文面は完成している。

 戦闘は終わっていない。

 生存者の確認も、被害範囲の算出も終わっていない。

 それでも外部へ提示される結論だけは、すでに確定している。

 ジェフリーは暫定報告を閉じる。

 代わりに二つの追跡記録を保存する。

 リク・ロクジョウ。生存。

 ドミネーター。所在不明。

 画面の向こうでは、リクがケイトを抱えたまま崩れた通路を進んでいる。

 外縁部では[スペリオルズ]の痕跡が消え、統制を失った[アウトサイダーズ]が複数方向へ散り始めていた。

 パース・シティは一つの結果へ収束している。

 残された者たちは、同じ方向へは進んでいない。

 崩壊後の記録は、ここから分岐する。


Block2

【RK-10|PS-2060–2080|外界複数地域|追跡】

 リク・ロクジョウに関する公式記録は、2060年で途切れている。

 パース・シティ崩壊後も、生体数値と戦闘能力に重大な異常は確認されていない。

 左義手と左義眼も正常に稼働し、《ゼロポイント》の出力低下も記録されていなかった。

 任務復帰は可能と判断されている。

 本人だけが、それを受け入れていない。

 崩壊後に実施された事情聴取では、リクは必要最低限の質問にしか答えていない。

 戦闘経過、核融合炉の異常、ドミネーターとの接触については事実のみを述べ、ケイト・クロスに関する質問には一度も応答していなかった。

 拒絶ではない。

 質問が聞こえていないわけでもない。

 記録映像では、ケイトの名前が出るたびに右手が服の内側へ触れている。

 そこには、彼女から渡された小型のスキットルが収められていた。

 表面には二文字が刻まれている。

 C.C.

 事情聴取終了後、リクは戦闘任務へ復帰していない。

 待機命令には従っている。

 医療検査にも応じ、義手と義眼の整備も規定通り受けている。

 規律違反は確認されていない。

 それでも、以前の状態へは戻っていなかった。

 訓練記録は残されている。

 射撃精度、近接戦闘、状況判断のいずれにも低下はない。

 大型リボルバーの射撃では、全弾が指定範囲へ収まっている。

 ナイフを使用した制圧訓練でも、対象を破壊せず動作だけを停止させていた。

 能力は失われていない。

 判断も変化していない。

 ただ、次の命令を待つ理由だけが消えている。

 同年、[統制防衛局]の解体と[統律特命局]への再編が開始された。

 人員記録、兵装、研究資料は順次移管され、リクについても新組織への所属更新手続きが準備されている。

 エージェントゼロという識別名も、継続使用を前提として登録されていた。

 更新は完了していない。

 指定された手続き日に、リクは現れなかった。

 居住区画に争った痕跡はない。

 警備システムへの侵入も、強制的な解錠も確認されていない。

 支給された通信端末と認証証が室内に残されている。

 統制防衛局の戦闘服も、折り畳まれた状態で保管されていた。

 持ち出されたものは限定されている。

 レツ・リチャード・ロクジョウから受け継いだ大型リボルバー。

 リベカ・ロクジョウから受け継いだナイフ。

 ケイトのスキットル。

 そして、本人が整備を続けていた旧式のオートバイ。

 最後の映像は外縁搬出口に残されている。

 リクは戦闘服ではなく、暗い色の私服と作業用の上着を身につけている。

 腰には大型リボルバーとナイフがあり、左義手の上から古い布が巻かれていた。

 呼び止める者はいない。

 認証はまだ有効だった。

 検問設備も、エージェントゼロを外部へ送り出す処理として通過を許可している。

 リクは外界へ出る。

 振り返らない。

 搬出口が閉じた後、認証記録だけが残っている。

【対象個体:リク・ロクジョウ】
【所属:統制防衛局】
【任務指定:なし】
【帰還予定:未登録】

 その二十一分後、認証情報は無効化された。

 追跡命令は発令されている。

 しかし、対象の確保を目的とした部隊は編成されていない。

 外界監視網への照会と周辺施設への通達だけが行われ、捜索範囲は数か月後に縮小された。

 記録上の扱いは失踪。

 後に退役処理へ変更されている。

 公的記録からエージェントゼロの名前が削除されたわけではない。

 パース・シティ防衛戦における英雄として、保存映像と戦果記録には残されている。

 ただし、その後については記載がない。

 死亡したとも、生存しているとも公表されていない。

 英雄として完成した時点で、個人としての記録が終わっている。

 外界側の記録に、最初の類似個体が現れるのは数年後だ。

 崩壊した旧輸送施設で、発電機と浄水設備を修理する男が確認されている。名前は登録されておらず、報酬として求めたのは食料、酒、機械部品だけだった。

 左腕は機械化されている。

 左眼にも人工物が確認できる。

 該当する個体は複数存在するため、この段階ではリクと断定されていない。

 同様の記録は、その後も外界各地に残されている。

 停止した輸送車両を修理した男。

 旧型発電設備の出力を一時的に回復させた男。

 集落の防壁を補修し、作業が終わる前に姿を消した男。

 いずれも氏名は不明。

 滞在期間も短い。

 共通しているのは、機械修理に関する高度な知識と、対価以上の仕事を残している点だけだった。

 武装集団との衝突記録も存在する。

 襲撃を受けた小規模集落で、複数の武装者が短時間で制圧されている。

 死者は確認されず、武器と車両だけが使用不能になっていた。

 監視映像は残っていない。

 現場では、異常な熱量低下と局所的な電力消失が確認されている。

 特殊系ネクス能力《ゼロポイント》との一致率は高い。

 それでも対象は追跡されていない。

 集落の住民は男の名前を知らないと証言している。

 外見についても、白髪の混じった修理屋だったという点しか一致していない。

 何人かは左腕について証言を拒否している。

 彼らは知らなかったのではない。

 答えなかった。

 記録を年代順に接続すると、移動経路は一定の範囲へ収束していく。

 ドーム都市から離れた外界。

 複数の交易路が交差する廃墟地帯。

 アウトサイダーズの小規模集落や流動民が立ち寄る一方で、三大勢力のいずれにも完全には管理されていない地域だった。

 2080年。

 長距離監視機が、廃墟内部で稼働する熱源を検出している。

 旧整備工場を転用した建物。

 外壁は補修され、屋根には回収品を組み合わせた発電設備が取り付けられている。

 内部では一人の男が輸送機の動力部を分解していた。

 年齢は五十代後半。

 黒髪には白髪が混じり、作業着には油と金属粉が染みついている。左腕はアームホルダーで固定され、露出した指先だけが部品を支えていた。

 左眼の発光は弱い。

 義眼として最低限の機能しか維持していない。

 作業台の端には古い大型リボルバーが置かれている。

 腰の後ろにはナイフがあり、椅子の横には金属製のスキットルが残されていた。

 映像を拡大する。

 摩耗した表面に、二文字が確認できる。

 C.C.

 顔認証は複数回失敗する。

 加齢、外傷、登録情報の欠損。

 いずれも照合精度を低下させる要因になっている。

 左義眼と左義手の機体識別情報は失効している。

 それでも、照合不能ではない。

【対象候補:リク・ロクジョウ】
【旧識別名:エージェントゼロ】
【一致率:99.4パーセント】
【現在所属:なし】

 リクは生きている。

 世界政府にも、統律特命局にも戻っていない。

 スペリオルズを追っている形跡もない。

 かつての戦場を調査し、失われた記録を集めている様子も確認されていない。

 古い機械を直し、酒を飲み、必要とされた時だけ他者を助けている。

 英雄としての行動ではない。

 任務でもない。

 それでも、選択だけは変わっていない。

 自分から戦場へ向かうことはなくなった。

 だが、目の前で誰かが壊れようとすれば、見過ごすこともできない。

 エージェントゼロは2060年に記録から消えている。

 リク・ロクジョウは、その後も生き続けている。


Block3

【DM-10|PS-2059–2080|外界複数地域|外部観測】

 [スペリオルズ]に関する内部記録は、2055年以降確認されていない。

 パース・シティ崩壊後も状況は変わらず、組織内の通信、指揮命令、構成員間の会話は取得できていない。

 残されているのは世界政府側の監視記録、襲撃を受けた施設の映像、外界居住者による証言だけだった。

 それらを接続した場合、一つの事実が確定する。

 スペリオルズは消滅していない。

 2059年の戦闘で複数の幹部を失い、投入したアウトサイダーズも離散している。

 戦力損耗は大きく、通常の組織であれば再建不能と判断される規模だった。

 それでも、ドミネーターは生存している。

 パース・シティから撤退した後、彼の反応は九か月間確認されていない。

 ヘヴンの位置も特定されず、既知の移動経路、補給地点、外界協力者への監視にも該当する動きはなかった。

 潜伏と判断された。

 だが、九か月後に発生した襲撃は、その評価と一致しない。

 旧シドニー外縁部。

 世界政府管理下の収容輸送施設が襲撃を受けている。

 施設には外界で確保されたネクス因子保有者二十三名が収容されていた。

 全員が未分類で、ドーム都市への移送を待つ段階にあった。

 襲撃開始から施設機能停止まで、三分十二秒。

 防衛要員に死者はいない。

 監視設備、拘束装置、通信回線だけが優先的に破壊され、収容対象は全員が連れ出されている。

 施設内に保管されていた武器、薬剤、食料には手をつけた形跡がなかった。

 映像にドミネーター本人は記録されていない。

 確認されたのは四個体。

 オラトリオ。

 グリズロス。

 クリスタリクス。

 フェイズ。

 いずれもパース・シティ崩壊時に生存が確認されていた個体と一致している。

 戦闘は最小限だった。

 オラトリオが施設内の統制を乱し、フェイズが閉鎖区画を通過する。

 クリスタリクスは拘束室の隔壁を破壊し、グリズロスが追撃部隊を押し留めていた。

 連携は成立している。

 指示を送る者の姿はない。

 それでも全員が同一の目的へ動き、確保した対象を取り残すことなく撤退している。

 撤退直前、施設周辺で大規模な思念反応が検出された。

 思念系cl.4《インペリウム》。

 反応は一度だけ発生し、追跡部隊の車両と無人機を同時に停止させている。

 破壊ではなく、運動機能だけが奪われていた。

 ドミネーターは現場にいた。

 ただし、姿を見せる必要がなかった。

 同様の事案は、その後も断続的に確認されている。

 ネクス因子保有者を移送する車列。

 能力実験を行っていた非公開研究施設。

 外界居住者を強制労働へ転用していた鉱業区画。

 いずれもスペリオルズによるものと推定される襲撃を受けている。

 共通点は明確だった。

 対象となる施設には、拘束されたネクス能力者が存在している。

 スペリオルズは彼らを解放し、連れ去っている。

 救出された者の全員が組織へ加入したわけではない。

 その場で離れた者もいれば、後に外界の集落で確認された者もいる。

 選択は残されている。

 だが、世界政府側の記録では、これらはすべて同一分類に収められた。

【スペリオルズによるテロ事案】
【目的:戦力拡大】
【危険度:最高】

 評価としては成立している。

 救出された個体の一部が、後にスペリオルズ構成員として確認されているためだ。

 組織が人員を増やし、戦力を維持したことも事実だった。

 それでも、説明できない部分が残る。

 加入を拒否した者が排除されていない。

 所在を知られた外界居住者も殺されていない。

 目撃者の処理も行われず、追跡に使用できる痕跡さえ意図的には消されていなかった。

 秘密を守るための行動ではない。

 組織拡大だけを目的とした行動とも一致しない。

 彼らは救出している。

 その後に残るか、離れるかは対象自身に選ばせている。

 かつてのガーディアンズと同じ行為に見える。

 だが、前提が違う。

 ガーディアンズは逃げ場を作ろうとしていた。

 スペリオルズは、逃げる必要のない力を持たせようとしている。

 この差は、年数の経過とともに明確になっていく。

 外界でスペリオルズの紋章を掲げる者が増え始める。

 彼らは一つの地域に集中していない。交易路、廃墟、放棄された地下施設を移動し、必要な場所だけに姿を現している。

 恒常的な領土は確認されていない。

 税を徴収した記録もない。

 外界集落へ服従を要求した形跡も存在しない。

 それでも、スペリオルズの反応が確認された地域では、武装集団の活動が一時的に停止している。

 彼らに従ったのではない。

 接触を避けている。

 ドミネーターが現れる可能性だけで、外界側の行動が変化している。

 命令は出されていない。

 規則も公開されていない。

 ただし、一つの基準だけは共有されていた。

 拘束されたネクスへ手を出せば、スペリオルズが現れる。

 その認識は、世界政府による公式発表よりも速く外界へ広がっている。

 ドミネーターは国家を作っていない。

 境界線も、法律も、行政機構も持っていない。

 それでも、彼の存在を前提とした秩序が成立し始めている。

 これを支配と呼ぶことはできる。

 本人も、それを否定していない。

 確認された映像の中で、ドミネーターが自ら戦闘へ参加する例は減少していく。

 前線に立つことはある。

 しかし、攻撃を開始するのは他の構成員だった。

 ドミネーターは後方から全体を観測し、必要な時だけ《インペリウム》を使用する。崩れた戦線を押し戻し、撤退路を作り、味方の能力干渉を抑制する。

 彼は戦場の中心に立たない。

 戦場そのものを中心へ引き寄せている。

 姿が確認されるだけで、周囲の配置が変わる。

 味方は指示を待たずに動き、敵は攻撃より退路を優先する。能力を持たない外界居住者であっても、その仮面を見た時点で距離を取っていた。

 直接的な精神支配の痕跡は確認されていない。

 《インペリウム》による強制ではない。

 彼らは自分の意思で従っている。

 2060年代前半、スペリオルズ内部で一度だけ大規模な戦闘反応が記録されている。

 場所はヘヴン周辺と推定されるが、正確な座標は取得できていない。

 二つの高出力反応が長時間衝突している。

 一方は《インペリウム》。

 もう一方は複数の野生系能力が混在した反応だった。

 後者はカニヴァルスと一致する。

 戦闘の開始原因は記録されていない。

 結果だけが残っている。

 カニヴァルスは敗北している。

 右眼を失い、複数の能力反応も消失した状態でヘヴンを離れている。

 追撃は確認されず、処刑された形跡もない。

 ドミネーターは彼女を殺していない。

 世界政府側の評価では、内部抗争による追放と処理されている。

 だが、それだけでは説明できない。

 カニヴァルスはスペリオルズの所在と構造を知る個体だった。

 高い戦闘能力を持ち、総帥へ直接挑戦している。

 組織維持を優先するならば、排除する方が合理的だった。

 それでも生かされている。

 数年後、オーストラリア外界に新たな勢力が確認された。

 クロウズネスト。

 その頭目はカニヴァルスだった。

 ドミネーターは自らへ挑んだ者を生かした。

 その結果、後にスペリオルズとは異なる一つの秩序が生まれている。

 意図していたかどうかは判断できない。

 ただし、同様の選択は過去にも確認されている。

 2059年。

 パース・シティ中枢。

 ドミネーターはリク・ロクジョウを排除できる位置にいた。

 リクは戦闘を継続できる状態ではなく、ケイト・クロスを支えながらその場に留まっている。

 周辺の防衛戦力も機能を失い、追撃を妨げる要素は存在していなかった。

 ドミネーターは攻撃していない。

 そのまま撤退している。

 以降、リクに対する直接的な追跡記録も確認されていない。

 居場所を把握できなかった可能性はある。

 だが、スペリオルズが外界へ広げた情報網を考慮すると、二十年間にわたって一度も痕跡を掴めなかったとは考えにくい。

 リクを敵と見なさなくなったのか。

 すでに役割を終えたと判断したのか。

 あるいは、別の可能性を残したのか。

 記録からは判別できない。

 確かなのはドミネーターが排除できる対象を、必ずしも排除していないということだ。

 彼の秩序は服従だけでは成立していない。

 離脱も、敗北も、拒絶も、その後に生き続ける限りは許容されている。

 ただし、再び彼の前に立つならば、自らの選択を証明しなければならない。

 それが明文化された規則なのかは分からない。

 スペリオルズ内部で共有されているかどうかも確認できない。

 それでも、構成員の行動には同じ基準が現れている。

 失敗した者を即座には切り捨てない。

 負傷者を残さない。

 死亡した者の遺体を可能な限り回収する。

 能力の制御を失った者を処分するのではなく、ヘヴンへ戻そうとする。

 これは効率的ではない。

 戦力だけを基準とする組織とも一致しない。

 力を掲げながら、力を失った者を見捨てていない。

 その矛盾がスペリオルズを維持している。

 2070年代以降、初期構成員ではない個体の活動が増加する。

 出自は統一されていない。

 世界政府施設から救出された者。

 外界集落から自発的に参加した者。

 三大勢力の支配地域から離脱した者。

 能力系統も、年齢も、思想も一致していない。

 彼らを繋いでいるのは、スペリオルズの紋章だけだった。

 その中には、直接戦闘を行わない構成員もいる。

 電子戦と情報干渉を担うスプロケット。

 輸送、治療、索敵、物資回収を専門とする者たち。

 初期のスペリオルズが強大な能力者を中心とした戦闘集団だったのに対し、2080年の組織は複数の役割を内包している。

 戦闘だけではない。

 救出した者を運ぶ。

 負傷者を治療する。

 追跡を遮断する。

 外界の情報を集める。

 集落間の経路を維持する。

 組織は拡大している。

 だが、軍隊になったわけではない。

 すべての構成員がドミネーターから直接命令を受けている形跡はなく、地域単位の行動も多い。

 それぞれが独立して動きながら、必要な時だけ同じ目的へ収束している。

 かつてのガーディアンズは、ロクストンという中心を失ったことで停止した。

 現在のスペリオルズは違う。

 ドミネーターが姿を見せていない時も動いている。

 彼が一つずつ命令しなくても、組織全体に判断基準が残されている。

 個体への依存を脱したとは言えない。

 ドミネーターが象徴である事実も変わっていない。

 それでも、彼が不在でも機能する構造へ変化している。

 2080年。

 外界北部で記録された映像にドミネーターの姿が残っている。

 周囲には複数のスペリオルズ構成員がいる。

 初期から生存する者と、後年加わった者が同じ範囲に立っていた。

 実年齢は五十八歳。

 外見に大きな変化は確認されない。

 黒と深紅の装束。

 顔を覆う仮面。

 2059年の記録から輪郭はほとんど変わっていない。

 ドミネーターは高所から外界を見下ろしている。

 眼下には一つの集落がある。

 スペリオルズの紋章は掲げられていない。

 住民が彼らへ服従している形跡もなく、構成員が内部へ常駐している様子も確認できない。

 それでも、集落へ向かっていた武装車両は進路を変えている。

 ドミネーターは何もしていない。

 言葉も発していない。

 ただ、そこにいる。

 それだけで衝突が回避されている。

 世界政府の記録では、彼は現在も最高危険度の敵性個体に分類されている。

 その評価に誤りはない。

 パース・シティを崩壊させた事実は消えず、現在も世界政府の施設と戦力へ攻撃を続けている。

 だが、破壊のみを目的とする存在ではない。

 侵攻だけを目的とする組織でもない。

 スペリオルズは世界政府の外側に別の秩序を形成している。

 法ではなく、存在によって維持される秩序。

 従うことを強制せず、逆らうことも禁じない。

 ただし、自らの選択に伴う結果だけは引き受けさせる。

 ドミネーターは王を名乗っていない。

 国家も宣言していない。

 それでも、彼を王として認識する者は増え続けている。

 パース・シティは崩壊した。

 スペリオルズは生き残った。

 彼らは失われた組織を再建したのではない。

 崩壊によって生まれた空白へ、別の基準を根づかせている。


Block4

【OS-10|PS-2059–2080|外界三地域|統合記録】

 [アウトサイダーズ]は、単一の組織を指す名称ではない。

 世界政府の管理領域から外れ、市民登録を持たず、外界で武装して活動する者たち。

 そのすべてを一つの敵性分類へ収めるために作られた総称だった。

 2059年のパース・シティ防衛戦でも、彼らは一つの群れとして処理されている。

 個体識別は行われていない。

 出自、能力、装備、参加理由にも差があったが、外壁へ向かうという一点だけで同じ敵として記録された。

 戦闘後、生存者は複数方向へ離散している。

 当時は統制を失ったと判断された。

 だが、後年の記録を接続すると、彼らは単に散ったのではない。

 水と薬剤が残る荒野。

 工場と機械が残る廃墟。

 港湾と高層建築が残る旧市街地。

 生存者、技術者、武装集団、都市から流出した物資は、三つの地域へ収束している。

 最初の収束点は、旧パース・シティ近郊のエイボンバレーだった。

 乾燥した荒野に採掘地、貯水設備、廃工場が点在し、複数の武装集団が活動していた地域である。

 その中心にタネ・トアが現れる。

 後にワイルドシングと呼ばれる疑似ネクス。

 薬剤によって肉体を変質させ、既存の支配者を倒した後、水、薬剤、採掘地、交易路を再配置した。

 [アッシュポイント]。

 そこでは力が地位を決める。

 戦士たちは能力維持薬やアニマルドーズ系薬剤を使用し、肉体の限界を一時的に越える。

 副作用によって異形化し、理性を失う者もいる。

 それでも使用は止まらない。

 薬剤を失えば戦えず、戦えなければ共同体における立場も失うためだ。

 内部には市場、水場、治療区画、採掘場があり、戦えない住民も生活している。

 ワイルドシングは自由を与えていない。

 ただし、市場を壊さない、水を汚さない、治療場を襲わないという最低限の掟を定めている。

 人道ではない。

 共同体を維持するための合理性だった。

 アッシュポイントは、力によって守られ、その力を生む薬剤によって内側から崩れ続ける社会である。

 二つ目の収束点は、旧パース・シティの廃工場群だった。

 残存する工作機械、発電設備、兵器生産区画を求め、技術者、元兵士、工場労働者、改造手術の生存者が集まっている。

 中心にいたのはフェラン・フィエロ。

 アイアンキングと呼ばれる機械化兵士だった。

 フェランは工場群を防壁で囲み、残存設備を再起動した。

 義肢、装甲、兵器を生産し、外界の襲撃に耐えられる要塞へ作り替えている。

 [ギアホールド]。

 ここでは機械化と役割が地位を決める。

 上層には改造兵士、中層には技術者と工場労働者、その下には改造失敗者や異形化した住民が置かれている。

 配給は均等ではない。

 戦える者、設備を維持できる者から優先される。

 それでも住民は外へ出ない。

 内部には格差があるが、少なくとも電力、防壁、住居が存在する。

 アッシュポイントが強者の群れであるなら、ギアホールドは一つの巨大な機械に近い。

 住民は部品として配置され、アイアンキングはその機械を止めないために支配している。

 三つ目の収束は、港湾と高層建築が残る旧市街地で確認された。

 そこへ集まったのは、他の二勢力に適応できなかった者たちだった。

 薬剤に耐えられなかった者。

 機械化手術を受けられなかった者。

 汚染や能力によって身体を変質させた者。

 彼らをまとめたのはカニヴァルス。

 かつてスペリオルズに属し、ドミネーターへ挑み、敗北後に生かされた個体だった。

 [クロウズネスト]。

 カニヴァルスは敗者を拒絶しない。

 ただし、無条件に守ることもしない。

 何ができるのか。何を引き受けられるのか。それを示した者だけに居場所を与える。

 高層建築は監視塔へ変えられ、港湾は密輸と物資搬入に利用された。地下通路と下水網は、潜伏と離脱の経路として接続されている。

 正面戦闘は避ける。

 監視、分断、奇襲によって必要な対象だけを排除する。

 クロウズネストは敗者を受け入れながら、その中から生き残る者を選別する社会である。

 三勢力は協力関係にない。

 アッシュポイントは鉱物と薬剤原料を持つ。

 ギアホールドは兵器と機械部品を持つ。

 クロウズネストは港湾と密輸経路を持つ。

 互いを敵視しながら、互いの資源を必要としている。

 そのため全面戦争には至らず、取引、襲撃、報復、停戦が繰り返されている。

 世界政府は三者をアウトサイダーズ三大勢力と分類している。

 だが、彼らはすでに単なる武装集団ではない。

 住民がいる。

 水と食料を配る仕組みがある。

 子供が生まれ、死者が埋葬され、技術と思想が次の世代へ継承されている。

 その秩序は暴力、依存、改造、階級、選別によって維持されている。

 それでも、世界政府の保護が届かない場所で人間が生きるための社会として成立している。

 スペリオルズとは異なる。

 ドミネーターは領土を持たず、能力者を救出しながら外界を移動している。

 三大勢力は土地を持ち、その土地から離れられない住民を抱えている。

 2059年、アウトサイダーズは名のない群れだった。

 二十一年後。

 その群れから三つの社会が生まれている。

 パース・シティから流出した人員、資源、技術が、その成立を支えた。

 内側を守るために作られた都市の残骸が、外側の秩序を形成している。

 これは防衛戦の被害記録には含まれていない。

 それでも、都市崩壊によって生じた最大の変化の一つである。

 ただし、すべての生存者が三つの社会へ収束したわけではない。

 土地を持たず、所属を拒み、外界を移動し続ける者たちも存在する。

 その記録には、一つの名称が残されている。

 カオスメイツ。


Block5

【CM-10|PS-2055–2080|外界複数地域|統合記録】

 カオスメイツに関する記録は、一つの起点へ収束しない。

 結成宣言は存在せず、組織名が最初に使用された日時も特定されていない。

 構成員名簿、活動方針、階級制度、固定された指揮系統も確認できなかった。

 それでも、複数の記録に同じ名称が残されている。

 カオスメイツ。

 世界政府は彼らを最高危険度の異常能力者集団として分類している。

 ただし、集団という定義が正しいかは不明だ。

 彼らは領土を持たない。

 アッシュポイントのような水場も、ギアホールドのような工場も、クロウズネストのような港湾も保有していない。

 守るべき住民も維持すべき生活基盤も存在しなかった。

 同じ場所に長期間留まった記録もない。

 廃墟。

 旧軍事施設。

 崩壊した地下区画。

 放棄された研究所。

 人のいなくなった集落。

 彼らは短期間だけ一つの場所に集まり、薬剤と物資を消費し、構成員の一部を失いながら再び移動している。

 目的地は共有されていない。

 移動経路にも一貫性はない。

 それでも、完全に分散することはなかった。

 カオスメイツの原型は、2055年のパース・シティ防衛戦後に確認されている。

 当時、スペリオルズ内部ではリミナルの死亡と、アスファルタスの内通発覚が重なっていた。

 その後、バッジャ、リンクス、デジャの三名がスペリオルズから離脱している。

 三名が同時に離れたのか、別々の経路を使用したのかは判明していない。

 離脱に関する内部記録も存在せず、ドミネーターが追跡を命じた形跡も確認されなかった。

 外界側で最初に確認された時、三名はすでに行動を共にしている。

 目的はない。

 新たな組織を作ろうとしている様子もない。

 互いを守っているとは言い難く、恒常的な協力関係も成立していなかった。

 ただ、離れなかった。

 一人では生きられず、スペリオルズにも戻れない者たちが、互いを拒絶し切れないまま同じ場所に残っていた。

 この時点では、まだカオスメイツという名称は使用されていない。

 変化が確認されるのは翌年だ。

 一人の男が三名へ接触している。

 肉体の大部分を人工物で補い、皮膚と義肢の隙間から黒い流動組織を露出させた個体。

 人工内臓、呼吸補助装置、低性能義肢、神経接続機構を複数使用しており、単独での生命維持が困難な状態だった。

 登録名は存在しない。

 顔認証も一致しなかった。

 だが、残存する能力反応は既知の個体と一致している。

 変成系cl.2《タールシェイプ》。

 アスファルタス。

 2055年、スペリオルズ内部で処刑されたと判断されていた個体だった。

 処刑後の遺体回収記録はない。

 しかし、D.A.R.K.残存回線には、重度損壊した変成系能力者をホンコン・シティ方面へ移送した痕跡が残されている。

 対象の氏名は削除されている。

 延命処置の内容だけが保存されていた。

 人工内臓。

 神経補助。

 義肢接続。

 タール状組織の固定。

 強化薬による能力維持。

 処置の結果、対象は生存している。

 ただし、アスファルタスという識別名は以後使用されていない。

 彼はスプライスと名乗っている。

 接合。

 継ぎ接ぎ。

 壊れた部分を、別の部品で繋ぎ止めることを意味する名称だった。

 スプライスは三名を指揮していない。

 命令も出していない。

 共通の目的を提示した形跡もなかった。

 彼が行ったのは、必要な物資を繋ぐことだけだった。

 薬剤の入手先。

 一時的に使用できる廃墟。

 追跡を避けるための移動経路。

 治療とは呼べない応急処置。

 世界政府、スペリオルズ、外界勢力に関する断片的な情報。

 スプライスは、壊れた者たちを正常な状態へ戻そうとはしていない。

 戻れないことを前提として、生きている状態だけを維持している。

 2056年。

 複数の外界記録で、初めてカオスメイツという名称が使用される。

 正式な結成ではない。

 壊れた者たちが一つの場所へ集まり、スプライスがそれを繋ぎ止め始めた。

 それだけが起点だった。

 カオスメイツを他の勢力と分ける最大の要素は、強化薬にある。

 正式名称は確認されていない。

 開発コードも、登録番号も存在しない。

 D.O.S.E.やC.O.R.E.のような管理名称も付与されておらず、構成員たちは単に強化薬と呼んでいる。

 薬剤は、ネクス能力者が本来持つ出力を増大させる。

 能力範囲を拡張し、反応速度を上げ、肉体が能力へ適応する速度を加速させる。

 一時的には症状を抑制し、能力制御を安定させる場合もある。

 その効果だけを参照すれば、能力維持剤として成立している。

 副作用はその定義と一致しない。

 長期間使用した個体では、精神変質、感情歪曲、肉体変異、人格崩壊が確認されている。

 能力と肉体の境界が失われ、自らを人間として認識できなくなった例も存在した。

 薬剤は能力者を強くしているのではない。

 能力者を能力そのものへ近づけている。

 開発者として記録されているのは、ブルーノ・ブレムザー。

 D.A.R.K.における人体強化研究の責任者であり、公式にはすでに研究職を退いていた人物だった。

 薬剤はD.A.R.K.の正式開発品ではない。

 退任後のブルーノが外界での実地データを収集するため、非公式に製造し横流ししたものと推定されている。

 供給経路の一部は、スプライスへ接続されている。

 Mr.Xがこの流通を把握していた可能性は高い。

 停止命令は確認されていない。

 回収部隊も派遣されていない。

 強化薬によって生じる変異、依存、集団形成、能力侵食。

 そのすべてが観測対象として放置されていた可能性がある。

 ただし、確証はない。

 薬剤を受け取ることは、カオスメイツへの加入条件ではない。

 忠誠を求められることもない。

 必要な者が求め、スプライスが渡す。

 使用を止めるかどうかも本人へ委ねられている。

 結果として壊れた場合も、責任を負う者はいない。

 それでも、薬を求める者は途絶えなかった。

 通常社会へ戻れない者にとって、将来の崩壊は拒絶の理由にならない。

 彼らが必要としているのは、数年後の治療ではない。

 今日、身体を動かすための力だった。

 2060年、レギオと呼ばれる個体が合流している。

 一つの人生では足りないと考え、自らの分身体を増やし続けた能力者。

 人間の肉体と寿命に限界があること自体を嫌悪し、複数の人生を同時に成立させようとしていた。

 正式な加入記録はない。

 ある日から行動映像に複数の同一人物が現れるようになった。

 それだけだった。

 2067年にはネーヴェが加わる。

 周囲から熱を奪い、活動と反応を終息させる元素系能力者。彼女は苦痛が終わることを救済と認識し、暴走した能力者や重傷者を静かに停止させていた。

 この時期、カオスメイツは六名で確認されている。

 スプライス。

 バッジャ。

 リンクス。

 デジャ。

 レギオ。

 ネーヴェ。

 後に第一期と分類される構成だった。

 六名は同じ思想を持っていない。

 互いを信頼しているわけでもない。

 スプライスへ忠誠を誓った記録も存在しなかった。

 それでも、それぞれの行動には一つの共通点がある。

 未来を前提としていない。

 スペリオルズは、能力者が生き延びるための未来を作ろうとしている。

 三大勢力は、土地と住民を次の世代へ残そうとしている。

 カオスメイツは違う。

 彼らは明日について語らない。

 今日を生きるために能力を使い、今日を乗り切るために薬を受け入れる。

 翌日に身体が壊れる可能性があっても、その危険を回避しようとはしない。

 これは自暴自棄とは一致しない。

 彼らは死を求めているわけではない。

 生きることを諦めてもいない。

 ただ、未来を条件にして現在を制限することを拒んでいる。

 その構造は長く維持されない。

 2072年、レギオの能力反応が消失している。

 強化薬による分身体の増加と人格分割が進み、どの個体が本体であるかを本人自身が認識できなくなった。

 最終的に全分身体が別々の行動を開始し、同一人格としてのレギオは成立しなくなっている。

 死亡ではない。

 だが、レギオという個体は消滅した。

 2073年、バッジャが死亡している。

 強化薬による肉体増幅と治癒を繰り返し、損傷を回復し切れない状態で追跡を続けた。

 最終記録では立ったまま動きを止め、その後、身体機能が回復することはなかった。

 2074年、リンクスが死亡している。

 他者との感覚接続を長期間維持した結果、自己と接続対象の境界を失った。

 最終的に複数人の恐怖と痛覚を同時に受け取り、自身の意識を保持できなくなっている。

 2075年から2076年にかけて、デジャの記録が途絶える。

 離脱直前に残された言葉は短い。

「もう見終わった」

 追跡は行われていない。

 スプライスが引き止めた形跡もなかった。

 第一期の構成は崩壊している。

 それでも、カオスメイツという名称は消えていない。

 残ったスプライスとネーヴェの周囲に、別の者たちが集まり始める。

 終わらない怒りによって思念出力を増幅するディスコルディア。

 群体化によって一人の人間としての境界を失い続けるスヴァルム。

 巨大な力と高揚だけを求めるグランディオ。

 都市構造そのものを疑似生命へ変え、世界を自らの盤面として作り替えるアーキト。

 彼らは失われた構成員の代わりとして選ばれたわけではない。

 それでも、第一期に存在した感情の空白を埋めるように集まっている。

 執着。

 悲しみ。

 怒り。

 恐怖。

 楽しみ。

 嫌悪。

 感情による分類が彼ら自身によって行われているかは不明だ。

 だが、能力の性質と行動原理を接続すると、六名は異なる感情を中心として成立している。

 カオスメイツは能力者の共同体である。

 同時に、壊れた感情が一時的に集まる場所でもある。

 2079年。

 アンカラ・シティで大規模な構造汚染が発生する。

 都市内部のAI制御、建築機構、通路、保守設備が同時に書き換えられた。

 壁面は増殖し、通路は接続先を変え、閉鎖された区画が別の位置へ移動している。

 原因はアーキトの《アーキ・フォージ》。

 世界政府は都市全域を封鎖し、住民の退避後にアンカラ・シティを放棄した。

 その後、複数のカオスメイツ構成員が都市内部へ出入りするようになる。

 再構成後アンカラ・シティは、カオスメイツの主要集合地点として記録されている。

 ただし、本拠地ではない。

 防壁を守る者はいない。

 領土を主張する者もいない。

 離脱を禁じる規則も存在しない。

 来る者は来る。

 去る者は去る。

 都市そのものも固定されておらず、内部構造は継続して変化している。

 三大勢力が崩壊後の土地へ秩序を作ったのに対し、カオスメイツは秩序を作らない。

 スペリオルズが能力者の未来を守ろうとしたのに対し、カオスメイツは未来を要求しない。

 彼らは世界政府を倒そうとしていない。

 社会を変えようともしていない。

 ただし、世界政府が管理できない能力者を受け入れ、管理されないまま生存させている。

 それ自体が現行体制にとって脅威となる。

 危険なのは彼らが怪物だからではない。

 能力に呑まれ、人間性を失い、通常社会へ戻れなくなっても、生存できる可能性を示しているからだ。

 2080年。

 第二期カオスメイツは六名で確認されている。

 スプライス。

 ネーヴェ。

 ディスコルディア。

 スヴァルム。

 グランディオ。

 アーキト。

 第一期から残っているのは二名だけだった。

 構成員は変わっている。

 能力も、感情も、関係性も同一ではない。

 それでもカオスメイツという名称は維持されている。

 組織が継承されたのではない。

 壊れた者たちが集まり、失われ、別の壊れた者たちが現れる。

 その流れだけが継続している。

 スペリオルズはドミネーターを中心として未来へ向かう。

 三大勢力は土地を中心として現在を維持する。

 カオスメイツは、どちらにも属さない。

 彼らは中心を持たない。

 帰る場所も持たない。

 目指す明日も持たない。

 ただ、今日という一日だけを繋ぎ止めている。

 その維持者であるスプライスの生命反応は、すでに限界値に近い。

 人工内臓の劣化。

 神経接続の崩壊。

 慢性的な出血。

 強化薬への依存。

 《タールシェイプ》による肉体補完。

 いずれか一つが停止すれば、生命維持は成立しない。

 それでも、スプライスは生きている。

 自分の未来を守るためではない。

 次に壊れた者が現れた時、一人で壊れさせないためだけに。

 アスファルタスは、生き残るためなら誰でも裏切った。

 スプライスは、自分が生き残れなくなった後も、他者を繋ぎ止めようとしている。

 変化の発生点は特定できない。

 ただし、その起点は2055年にある。

 パース・シティで処刑され、死亡したと記録された一人の男。

 その個体が生存していたことで、二十五年後も消えない流れが生まれている。

 公式記録では、アスファルタスは死亡している。

 カオスメイツの創設者と、同一人物ではない。

 少なくとも、公的には。

 ジェフリーは二つの記録を同一画面へ表示する。

【対象個体:アスファルタス】
【状態:2055年死亡】

【対象個体:スプライス】
【状態:2080年生存】

 能力反応。

 人工義肢の接続位置。

 タール状組織の構成。

 残存する神経パターン。

 すべてが一致している。

 それでも、記録上では別人として処理されている。

 これは誤認ではない。

 情報不足でもない。

 誰かが二つの記録を接続しなかった。

 あるいは、接続されることを望まなかった。

 カオスメイツは、世界政府の外側で偶然生まれた異常集団ではない。

 D.A.R.K.の実験。

 ブルーノ・ブレムザーの薬剤。

 Mr.Xの黙認。

 スペリオルズからの離脱。

 世界政府による排除。

 複数の過去が、接続されないまま一つの流れへ合流している。

 パース・シティ崩壊後の世界に生まれたものは、三大勢力だけではない。

 土地へ収束しなかった者たちも、別の形で生き続けている。

 彼らは社会を作らない。

 歴史を残そうともしない。

 それでも、記録から消えない。

 カオスメイツは勢力ではない。

 世界が処理できず、外側へ押し出したものが流れ続けた結果である。


Block6

【GF-10|PS-2080|統律特命局記録室|通常】

 記録室には端末の駆動音だけが残っている。

 壁面に並ぶ保存装置は低い振動を続け、複数の画面が室内へ淡い光を落としていた。
 外部からの通信は遮断され、扉も内側から閉鎖されている。

 [統律特命局]長官、ジェフリー・モーガンは一人で操作卓の前に座っている。

 六十八歳。

 髪には白いものが増え、長時間同じ姿勢を続けた身体には疲労が残っている。
 それでも画面を追う視線は、二十五年前から大きく変わっていない。

 正面には、再構成を終えた記録が表示されている。

【統合報告:MONOCHROME】
【対象期間:2050–2080】
【再構成処理:完了】
【未接続記録:複数】
【最終評価:保留】

 その周囲には、個別に開かれた記録が残されていた。

【リク・ロクジョウ:生存】
【現在所属:なし】

【ドミネーター:活動継続】
【所属:スペリオルズ】

【アッシュポイント:存続】
【ギアホールド:存続】
【クロウズネスト:存続】

【カオスメイツ:構成変動】
【活動状態:継続】

 いずれも個別の記録としては成立している。

 リクは統制防衛局を離れ、外界で修理屋として生きている。
 ドミネーターはスペリオルズを率い、世界政府の外側で能力者を救出し続けている。

 三大勢力は土地を持ち、住民と生活基盤を抱える社会へ変化した。

 カオスメイツは土地を持たず、構成員を入れ替えながら外界を流れ続けている。

 それぞれに異なる起点がある。

 別々の思想があり、別々の目的があり、互いに協力しているわけでもない。
 同じ結果へ向かっているとも言い難い。

 それでも、記録を遡ると一つの期間へ戻る。

 2050年から2059年。

 パース・シティ。

 リクとドミネーターの接触。
 ガーディアンズからスペリオルズへの移行。
 アスファルタスの処刑記録。
 カニヴァルスの離脱。
 アウトサイダーズの侵攻。
 ケイト・クロスの死。
 都市機能の崩壊。

 一つずつを独立した事案として扱うことはできる。

 実際、これまではそう処理されてきた。

 戦闘記録。

 組織再編。

 テロ事案。

 能力者の離脱。

 外界勢力の拡大。

 薬剤汚染。

 いずれにも個別の管理番号が割り振られ、それぞれ異なる部門で保存されている。

 関連性は登録されていない。

 ジェフリーは画面上の記録を一つずつ移動させる。

 リク。

 ドミネーター。

 スペリオルズ。

 三大勢力。

 カオスメイツ。

 離れていた記録が、同一画面上で近づいていく。

 接続線は表示されない。

 システム上、直接的な因果関係が認められていないためだ。

 それでも、配置すると形が現れる。

 パース・シティの崩壊を中心として、それぞれが異なる方向へ広がっている。

 リクは組織を離れ、個人へ戻った。

 ドミネーターは個人から象徴へ変わった。

 アウトサイダーズは名のない群れから、土地を持つ三つの社会へ分かれた。

 アスファルタスは記録上で死亡し、スプライスとして流れを作った。

 どれも同じ道を進んではいない。

 ただ、同じ崩壊から生まれている。

 ジェフリーは表示を止める。

 調査開始時の目的は、二個体の比較だった。

 リク・ロクジョウ。

 ドミネーター。

 同じ戦場に立ち、同じ対象を見ながら、異なる選択を行った二人。

 片方は世界政府の内部にいた。

 もう片方は、その外部にいた。

 片方は命令を受けて戦った。

 もう片方は、自らの基準で戦場を動かした。

 立場は正反対だった。

 それでも、両者は排除できる対象を必ずしも排除していない。

 リクは敵を殺さず、可能な限り生かそうとした。

 ドミネーターも敗北した者や離脱する者を必ずしも殺していない。

 方法は一致していない。

 守ろうとする対象も違う。

 それでも、選択の内部には似た形が残っている。

 ジェフリーは椅子へ背を預ける。

 右手が上着の内側へ入り、古いコインを取り出す。

 表面は摩耗し、刻印の一部は読めなくなっている。

 父から受け継いだ崩壊以前の通貨だった。

 現在では価値を持たない。

 交換にも使用できず、制度上の意味も失われている。

 それでも捨てずに持ち続けている。

 過去が正しかったからではない。

 失われたものを、失われていないことにしないためだ。

 ジェフリーはコインを指先で裏返す。

 表と裏。

 二つの面は同時には見えない。

 片方を見れば、もう片方は隠れる。

 それでも、一枚のコインであることは変わらない。

 視線が再び二つの記録へ向く。

 リク。

 ドミネーター。

 正義と悪ではない。

 秩序と混沌でもない。

 どちらか一方だけを参照すれば、既存の分類は成立する。

 リクは英雄。

 ドミネーターは敵。

 だが、両方を同時に配置すると、その分類だけでは説明できない部分が現れる。

 リクが守った組織はケイトを守らなかった。

 ドミネーターが破壊した都市は、外界の人間を守っていなかった。

 世界政府は秩序を維持した。

 その外側で三大勢力とカオスメイツが生まれている。

 スペリオルズは脅威であり続けている。

 同時に世界政府が回収しなかった能力者を救出している。

 どちらが正しいかという問いではない。

 どちらかだけを正しいものとして記録した時、もう片方で起きた事実が失われる。

 ジェフリーはコインを操作卓の上へ置く。

 小さな金属音が静かな記録室に残る。

 報告書の提出画面を開く。

【提出先:Mr.X】
【機密区分:最高】
【未確定情報を含む】
【提出を実行しますか】

 選択肢は二つ。

【実行】
【取消】

 ジェフリーの指が【実行】の上で止まる。

 この報告は完成している。

 記録の選別も、統合も、再配置も終わっている。

 不整合を削除せず、確認できなかったものを断定せず、残された事実だけを接続した。

 指示された作業は完了している。

 それでも、なぜ今なのかという疑問だけが残る。

 パース・シティ崩壊から二十一年。

 リクは組織を離れ、ドミネーターは活動を続けている。
 三大勢力もカオスメイツも、すでに新たな段階へ移行している。

 この時点でMr.Xが二人の記録を再調査させた理由は、過去の評価を修正するためではない。

 過去を知りたいだけなら、もっと早く行えた。

 参照権限を解除し、封鎖記録まで開放し、複数の事案を同時に接続させた。

 何かが起きる前に。

 ジェフリーが【実行】を選択する。

【送信処理を開始】
【暗号化中】
【転送完了】

 画面が一度暗転する。

 数秒後、新たな表示が現れる。

【受領確認】
【発令者:Mr.X】
【統合結果を保持】
【追加照合を開始】

 ジェフリーの眉がわずかに動く。

 報告に対する評価はない。

 承認も否定もない。

 代わりに新しい記録へのアクセス権限が開放されていく。

【関連対象:ケイト・クロス】
【関連記録:封鎖指定】
【継承識別:未確定】

 続いて、一人の人物名が表示される。

【アビゲイル・エイミー・アームストロング】

 ジェフリーは画面を見たまま動かない。

 名前は知っている。

 記録上の立場も把握している。

 それでも、リクとドミネーターの統合報告へ接続される理由は表示されていない。

 画面の端に新たな項目が現れる。

【照合対象を確認してください】

 ジェフリーは操作卓の上に置いたコインを見る。

 表と裏のどちらでもない。

 その二つを繋いでいる、薄い側面だけが光を受けている。

 今回の調査は、過去を整理するためのものではなかった。

 これから発生する事象を理解するために、過去を接続する必要があった。

 リクとドミネーターの間にあった分岐は、二人だけで完結していない。

 ケイトの死でも終わっていない。

 スペリオルズ。

 三大勢力。

 カオスメイツ。

 それぞれへ広がった流れが、2080年の現在で再び一つの記録へ近づき始めている。

 ジェフリーは新たなファイルを開く。

 報告は完了した。

 観測は、まだ終わっていない。


Brief

 本報告における記録の選別、再構成、関連照合は完了している。
 未接続の断片と不整合は残存しているが、単純な情報欠落として補完できるものではない。
 それらを排除すれば、リク・ロクジョウは英雄、ドミネーターは最高危険度の敵性個体という既存評価へ収束する。
 結果のみを参照する限り、その分類に誤りはない。
 しかし、行動過程は完全には一致していない。
 リクは命令系統に属しながら、任務より他者の生存を優先した。
 ドミネーターは破壊と侵攻を行いながら、排除可能な対象を必ずしも排除していない。
 両者の立場と方法は異なる。
 それでも、結果へ至る直前の選択には類似する構造が確認される。
 その分岐は、二個体だけで完結していない。
 リクは組織を離れ、一個人として生存した。
 ドミネーターは象徴となり、スペリオルズは一つの秩序へ変化した。
 名のないアウトサイダーズは三つの社会へ分岐した。
 死亡したと記録されたアスファルタスはスプライスとして生存し、カオスメイツという流れを生み出している。
 これらは別個の事案として保存されている。
 だが、記録を遡れば、すべてが2050年から2059年のパース・シティ周辺へ接続される。
 パース・シティ崩壊は、一つの都市防衛が失敗した事案ではない。
 都市内部の人員、資源、技術、能力者、思想が外界へ流出し、異なる秩序へ再編された起点である。
 公開されている事実と、実際に残存する記録は一致していない。
 差異は情報量ではなく、英雄と敵、内部と外部、社会と異常、生存と死亡を分ける分類そのものに存在する。
 よって、本件に単一の結論を設定することは適切ではない。
 ただし、本調査が過去の評価を修正するためだけに命じられたものではないことは明らかである。
 統合完了後、ケイト・クロスおよびアビゲイル・エイミー・アームストロングに関する封鎖記録が開放されている。
 両者が本件へ接続された理由は、現段階では不明。
 本報告は、過去を一つの答えへ確定するものではない。
 後続事案を、過去から切り離された新規事象として処理しないための記録である。
 パース・シティで生じた分岐は、二十一年を経た現在も収束していない。
 ——後続記録への接続を維持する。

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