中央物流センターへ向かっていた五つの反応が二つに分かれた。
【SUBJECT GROUP:5】
【ROUTE DIVISION:DETECTED】
【GROUP A:3】
【GROUP B:2】
オリヴィア・オコネルは旧保守図と現在の物流設備記録を重ねた。
五人が自発的に別方向へ移動した形跡はなかった。
搬送設備が切り替えられていた。
隔壁も閉鎖されていた。
手動経路にも操作記録が残っていた。
変異市民による設備操作も確認された。
複数の処理が短い時間差で続いていた。
【ROUTE CHANGE:EXTERNAL FACTOR/PROBABLE】
【CENTRAL-01 CORRELATION:HIGH】
中央物流区画で確認されている局地命令網も変化していた。
数分前より命令の伝達間隔が短くなっていた。
【COMMAND RELAY DELAY:DECREASING】
【CONNECTED SUBJECTS:INCREASING】
【LOCAL CONTROL DENSITY:RISING】
以前は一体が動いた後で別の一体が続いていた。
現在は一つの設備操作が終わる前に次の配置が始まっていた。
リピーターが中継していた。
ロストが位置を変えていた。
ブーステッドが通路を塞いでいた。
物流設備も動きに合わせて開閉していた。
[世界政府]の現在図へ反映された時には一つ前の状態になっていた。
オリヴィアは位置表示を止めた。
「現在位置ではなく変更履歴を出して」
三浦主任が処理を止めた。
「追跡を切りますか?」
「位置だけ」
オリヴィアは表示条件を変更した。
【TRACKING MODE:STATE TRANSITION】
【CURRENT POSITION:SECONDARY】
【SYSTEM CHANGE HISTORY:PRIMARY】
人物を示していた点が消えた。
変化した設備と経路だけが残った。
GROUP Aの反応を既知記録と照合した。
【GROUP A:3】
【SPROCKET:HIGH CORRELATION】
【CHRONIAS:HIGH CORRELATION】
【THIRD SUBJECT:UNRESOLVED】
未確定反応はヴァレンとの相関が高かった。
GROUP Bも照合した。
【GROUP B:2】
【AKIYAMA AKIRA:HIGH CORRELATION】
【AIRIE:HIGH CORRELATION】
現在参照できる範囲では事件以前の人物記録を確認できなかった。
今回のトーキョー・シティ侵入後に名前が取得されていた。
生体反応も記録されていた。
戦闘時には天然ネクスと一致する高出力が確認されていた。
[スペリオルズ]との行動も継続していた。
【SUBJECT:AIRIE】
【FORMAL AFFILIATION:UNCONFIRMED】
【ASSOCIATION:SPROCKET/HIGH】
【NEX ORIGIN:NATURAL/PROBABLE】
【PREVIOUS CIVIL RECORD:NO MATCH】
【LEGAL IDENTITY:UNRESOLVED】
オリヴィアは法的身元の欄を空白のまま残した。
記録が存在しない部分を推測で埋める必要はなかった。
中央物流区画の外縁で新しい反応が出た。
【UNREGISTERED ENTRY:DETECTED】
【OUTER MAINTENANCE SECTOR】
【SUBJECT COUNT:1】
一つの保守センサーが反応した。
離れた位置にある別のセンサーもほぼ同時に反応した。
三つ目までの時間差も通常の人間には成立しなかった。
【NODE 21:ACTIVE】
【NODE 24:ACTIVE】
【NODE 31:ACTIVE】
【MOVEMENT VELOCITY:ABOVE LOCAL TRACKING LIMIT】
三浦主任が映像記録を開いた。
「一枚だけ残っています」
黒い高速スーツが画面の端に映っていた。
ゴーグルで顔は確認できなかった。
身体の輪郭も移動によって崩れていた。
人物認証に使える情報は不足していた。
「動きで探して」
「現行記録だけですか?」
「内部記録まで」
【MOVEMENT PATTERN:ARCHIVE SEARCH】
通常の[世界政府]記録では一致しなかった。
公開対象から外された旧作戦記録から一件だけ高い相関が返った。
【RESTRICTED ARCHIVE:MATCH CANDIDATE】
【ACCESS LEVEL:INTERNAL】
オリヴィアが認証を通した。
旧パース・シティの記録が開いた。
荒野を高速で横切る人影が映っていた。
映像の端には白と水色の残光が残っていた。
一つの人物反応が複数の戦闘区域を短時間で往復していた。
記録映像は鮮明ではなかった。
能力測定も完全ではなかった。
現在のトーキョー・シティで取得した加速特性と減速特性は一致していた。
【ARCHIVED SUBJECT:MACHLINE】
【AFFILIATION:[スペリオルズ]】
【MOVEMENT PATTERN MATCH:HIGH】
【IDENTITY CORRELATION:HIGH】
「マッハライン」
オリヴィアは現在記録へ名前を追加した。
高速反応はGROUP Bへ接近していた。
【GROUP B】
【SUBJECT COUNT:2 → 3】
【NEW SUBJECT:MACHLINE/HIGH CORRELATION】
三浦主任が表示を確認した。
「[スペリオルズ]が増えました」
「ええ」
「予定していた合流でしょうか?」
「分からない」
オリヴィアはマッハラインの侵入経路だけを保存した。
「予定だったことにはしないで」
◇
オリヴィアの個人端末に秘匿回線が開いた。
【SECURE SYNC:CONNECTED】
【TARGET:Mr.X】
共有監査画面には何も表示されなかった。
先ほど送った秘匿記録への応答だった。
『確認した』
「全部?」
『全部だ』
オリヴィアは一般監査から切り離した記録を開いた。
【SUBJECT:SPROCKET】
【LEGACY AUTHORIZATION:PARTIAL MATCH】
【ACCESS ATTEMPT:NONE】
【PROJECT INTER-FACE】
【EXTERNAL ACCESS PATH:RESPONSE DETECTED】
「PROJECT INTER-FACEへの経路が応答した」
『接続したのか』
「していない」
『アクセス要求は』
「ない」
『本人は』
「探していない」
短い沈黙が入った。
「それが問題よ」
『再現性は』
「まだ足りない」
『スプロケットを生きたまま確保しろ』
返答は早かった。
オリヴィアは画面から視線を動かさなかった。
「確認を待たないの?」
『待つ必要はない』
「PROJECT INTER-FACEへの反応だけで?」
『それだけではない』
オリヴィアの指が止まった。
「何を知ってるの?」
『今必要な情報は送った』
「送っていないから聞いてる」
『確保を優先しろ』
「答えになってない」
『必要な答えだ』
オリヴィアはスプロケットへ割り当てた監査資源を表示した。
他の対象より多くの処理能力がすでに割り当てられていた。
『君も優先している』
「認証異常を追ってるからよ」
『そう記録している』
オリヴィアは表示を閉じなかった。
「あなたは何を知ってるの?」
『今必要な情報は同期している』
「同期していない情報がある」
『ある』
Mr.Xは否定しなかった。
「私をトーキョー・シティ担当へ置いたのも関係してる?」
『理由の一つだ』
「何が起きるか知ってた?」
『知らない』
「何かが起きる可能性は考えてた」
『そうだ』
「だから私を置いた」
『適任だった』
「それも理由の一つ?」
『そうだ』
オリヴィアは追及を止めた。
Mr.Xがスプロケットの出現を予測していた証拠はなかった。
トーキョー・シティで何らかの異常が表面化する可能性は考えていた。
その処理役として自分を配置した。
確認できるのはそこまでだった。
『回収順位を送る』
【SPECIAL RECOVERY DIRECTIVE】
【AUTHORIZED BY:Mr.X】
【OPERATION PRIORITY:UPDATED】
最上段へスプロケットが入った。
【PRIORITY 01】
【SUBJECT:SPROCKET】
【CLASSIFICATION:NATURAL NEX】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【STATUS:TOP PRIORITY】
【PRIORITY 02】
【SUBJECT:CHRONIAS】
【CLASSIFICATION:NEX】
【TEMPORAL RESPONSE ANOMALY:HIGH】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【PRIORITY 03】
【SUBJECT:MACHLINE】
【AFFILIATION:[スペリオルズ]】
【CLASSIFICATION:NATURAL NEX】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【PRIORITY 04】
【SUBJECT:AIRIE】
【FORMAL AFFILIATION:UNCONFIRMED】
【ASSOCIATION:SPROCKET/HIGH】
【NEX ORIGIN:NATURAL/PROBABLE】
【PRIORITY 05】
【SUBJECT:AKIYAMA AKIRA】
【CURRENT CLASSIFICATION:SPECIAL REMNANT CANDIDATE】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【PRIORITY 06】
【SUBJECT:CENTRAL-01】
【SELF-DESIGNATION:GAME MASTER】
【LEGAL IDENTITY:UNRESOLVED】
【CURRENT CLASSIFICATION:SPECIAL REMNANT】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
ヴァレンだけが順位外に残された。
【SUBJECT:VAREN】
【IDENTITY:PARTIAL】
【CLASSIFICATION:UNRESOLVED】
【RECOVERY ORDER:PENDING】
オリヴィアは一覧を上から下まで確認した。
回収対象そのものに異論はなかった。
天然ネクスがいた。
特殊な能力反応を持つ個体もいた。
通常分類に収まらないレムナントもいた。
生存状態で確保して調査へ回す理由は成立していた。
問題は順位だった。
「スプロケットだけ別扱いね」
『そうだ』
「PROJECT INTER-FACEだけが理由?」
『違う』
「他は?」
『今は必要ない』
「便利な答え」
『正確な答えだ』

回線が切れた。
【SECURE SYNC:CLOSED】
オリヴィアは通信履歴を消さなかった。
PROJECT INTER-FACEの情報も一般監査系へ戻さなかった。
公的な作戦命令へ使用できる項目だけを抽出した。
【SUBJECT:SPROCKET】
【LEGACY SYSTEM RESPONSE:ANOMALOUS】
【SYSTEM INTERACTION RISK:HIGH】
【LIVE RECOVERY:MANDATORY】
【RECOVERY PRIORITY:01】
三浦主任が変更を確認した。
「最優先ですか?」
「ええ」
「旧A.R.K.の反応が理由?」
「理由の一つ」
三浦主任はそれ以上聞かなかった。
オリヴィアは正式作戦系統へ回収順位を送った。
【NEX HOUNDS】
【RECOVERY PRIORITY:UPDATED】
【DIRECT TERMINATION:PROHIBITED】
【ALL DESIGNATED SUBJECTS:LIVE RECOVERY】
リッジから応答が返った。
『更新を確認した』
「現在の回収対象を安全区域へ移送して」
『その後はスプロケット』
「最優先」
『了解』
「生存状態で」
『全対象が生存回収』
オリヴィアは中央物流区画の状態を確認した。
「直接進入はまだ待って」
『理由は』
「命令網の変化が速い」
『安全経路ができたら動く』
「それでいい」
通信が切れた。
リッジにPROJECT INTER-FACEを伝える必要はなかった。
現場に必要なのは対象と条件と開始時点だった。
◇
高速反応がGROUP Bへ到達した。
【GROUP B】
【SUBJECT COUNT:3】
【MACHLINE:HIGH CORRELATION】
GROUP Bの相関情報が更新された。
【AIRIE:HIGH CORRELATION】
【AKIYAMA AKIRA:HIGH CORRELATION】
【MACHLINE:HIGH CORRELATION】
マッハラインが加わった直後からCENTRAL-01側の配置変更回数が増えた。
ロストが通路へ移動した。
配置が完了する前に障害物の位置が変わった。
リピーターが扉へ向かった。
到達前に固定機構だけが外された。
別の進路へ変異市民が配置された。
高速反応はその外側を回った。
【CENTRAL-01:ROUTE CONTROL/ACTIVE】
【FIELD DEVIATION:REPEATED】
【CORRELATED SOURCE:MACHLINE】
マッハラインは命令網へ侵入していなかった。
設備を支配している形跡もなかった。
配置が完成する前に物理的な状態だけを変えていた。
旧パース・シティの記録と一致していた。
速さそのものが相手の処理時間を奪っていた。
【ARCHIVED BEHAVIOR:CONSISTENT】
CENTRAL-01側が再配置した。
マッハラインが先に動いた。
再配置が始まった。
高速反応が移動した。
別の配置が始まった。
高速反応が再び移動した。
完成した状態が維持される時間は短くなっていた。
【FIELD STATE LIFETIME:DECREASING】
【COMMAND RESPONSE CYCLE:SHORTENING】
オリヴィアは未来位置の自動予測を止めた。
【SUBJECT ROUTE FORECAST:SUSPENDED】
予測するより発生した変化だけを残す方が正確だった。
二つの集団が再び近づいた。
【GROUP A:3】
【GROUP B:3】
【DISTANCE:DECREASING】
中央集積区画で複数の設備が同時に反応した。
【GROUP MERGE:DETECTED】
【SUBJECT COUNT:6】
六人の相関を更新した。
【SPROCKET:HIGH CORRELATION】
【AIRIE:HIGH CORRELATION】
【AKIYAMA AKIRA:HIGH CORRELATION】
【VAREN:PARTIAL】
【CHRONIAS:HIGH CORRELATION】
【MACHLINE:HIGH CORRELATION】
六人は同じ方向へ進み始めた。
目的地は中央中継設備と一致していた。
CENTRAL-01側の命令網とは構造が違っていた。
六人をまとめる共通信号はなかった。
一つの神経反応を中心にした接続もなかった。
一人から他の五人へ送られる命令も確認できなかった。
【SUBJECT GROUP:6】
【COORDINATED ACTION:DETECTED】
【CENTRAL COMMAND SOURCE:NONE】
【NEURAL COMMAND LINK:NONE】
三浦主任が六人の反応を確認した。
「指揮役は?」
「出ていない」
「でも同じ目的で動いています」
「それと指揮は別」
誰が何を決めたのかまでは確認できなかった。
音声記録も断片的だった。
高速反応は配置を乱していた。
高出力反応は前方へ移動していた。
秋山明は設備変化の直前に位置を変えていた。
クロニアスの弱い生体反応は集団中央から大きく外れなかった。
ヴァレンもクロニアスの近くにいた。
スプロケットだけが命令中継へ接近していた。
オリヴィアは統率方法を補完しなかった。
【COORDINATION METHOD:UNRESOLVED】
中央管制室周辺で命令中継が一つ消えた。
【LOCAL COMMAND RELAY:INTERRUPTED】
三浦主任が発信源を確認した。
「CENTRAL-01は残っています」
「発信も?」
「継続しています」
【CENTRAL-01:COMMAND SOURCE/ACTIVE】
周辺区画では命令網が維持されていた。
一つの区画だけ命令が届いていなかった。
【LOCAL NETWORK:DISCONNECTED】
【ALTERNATE COMMAND SOURCE:NONE】
[世界政府]側から遮断処理は実行していなかった。
設備故障も記録されていなかった。
発生地点はスプロケットの反応と重なっていた。
【SPROCKET CORRELATION:HIGH】
オリヴィアは詳細ログを開いた。
外部から入力されていた命令だけが消えていた。
新しい命令は追加されていなかった。
CENTRAL-01の支配がスプロケットの支配へ置き換わった形跡もなかった。
【COMMAND TAKEOVER:NOT DETECTED】
【COMMAND REPLACEMENT:NONE】
【NETWORK SEVERANCE:CONFIRMED】
統一行動を失った変異市民は別々の動作へ戻っていた。
一体は歩き始めた。
一体はその場で止まった。
一体は同じ設備操作を繰り返した。
別の一体は壁を押し続けていた。
共通した目的は失われていた。
【CENTRAL CONTROL:NONE】
【INDIVIDUAL PATTERN:PARTIAL RESTORATION】
「奪ってない」
三浦主任がオリヴィアを見た。
「何をですか?」
「命令網」
オリヴィアは切断前後のログを並べた。
「触れてるけど置き換えてない」
「できなかった可能性は?」
「ある」
「しなかった可能性も?」
「ある」
オリヴィアはどちらも確定しなかった。
【NETWORK ACCESS:CONFIRMED】
【COMMAND SEVERANCE:CONFIRMED】
【COMMAND REPLACEMENT:NOT DETECTED】
【CONTROL INTENT:UNRESOLVED】
Mr.Xが能力を危険だと判断した理由は理解できた。
スプロケットは複数個体へ広がった命令網へ接触していた。
局地的とはいえ命令経路そのものを切断していた。
現在確認されている機械系統への干渉特性は、通常のネクス能力分類だけでは説明しきれなかった。
旧A.R.K.設備も彼女へ反応していた。
PROJECT INTER-FACEへの経路も応答していた。
危険という評価は成立していた。
だが、Mr.Xが最優先確保を決めたのは命令網切断を確認する前だった。
PROJECT INTER-FACEへの異常応答を報告した直後には判断が終わっていた。
それ以前にもMr.Xはスプロケットに関する情報を持っていた。
オリヴィアは既存記録を開いた。
【SUBJECT:SPROCKET】
【PREVIOUS DATA:LIMITED】
【NEX CLASSIFICATION:NATURAL】
【ABILITY DATA:PARTIAL】
【FIELD RECORDS:FRAGMENTARY】
記録は多くなかった。
過去の作戦で確認された姿が残っていた。
機械系統への特殊な接触も記録されていた。
[スペリオルズ]との行動記録もあった。
断片的な戦場データも保存されていた。
今回取得した情報の方がすでに詳細だった。
旧A.R.K.への部分認証があった。
停止設備の再起動も確認された。
命令網への接触も発生した。
局地切断まで確認された。
【CURRENT ANOMALY CORRELATIONS】
【LEGACY AUTHORIZATION RESPONSE】
【SYSTEM INTERACTION】
【NETWORK ACCESS】
【COMMAND SEVERANCE】
危険性は確認できた。
最優先にする理由のすべては確認できなかった。
オリヴィアは検索範囲を広げた。
【SUBJECT SEARCH:SPROCKET】
【ARCHIVE DEPTH:INCREASED】
関連ファイルが並んだ。
どれも断片的だった。
直接つながる記録はなかった。
【REFERENCE CHAIN:INCOMPLETE】
【IDENTITY BACKGROUND:INSUFFICIENT】
Mr.Xと同じ情報を見ているつもりだった。
少なくとも自分がアクセスできる記録についてはそうだった。
同じ記録だけではMr.Xと同じ判断には到達できなかった。
彼が別の情報を持っている可能性は高かった。
オリヴィアは可能性を確定事項には変えなかった。
【PRIORITY BASIS:PARTIAL】
【ADDITIONAL AUDIT:ACTIVE】
「追加監査を継続」
三浦主任が入力した。
「最優先回収対象のままですか?」
「ええ」
「監視も続ける?」
「続けて」
「両方?」
「矛盾する?」
「しません」
「ならそのまま」
◇
中央物流センターから警告が入った。
【CENTRAL-01】
【COMMAND LOAD:RISING】
【NEURAL STRESS:CRITICAL】
命令源の生体負荷が急激に上昇していた。
これまで命令伝達には時間差が存在していた。
一体へ送られていた。
中継されていた。
次の個体へ渡されていた。
異なる命令が順番に広がっていた。
安全制御が神経負荷と伝達速度を抑えていた。
その制御へ解除要求が出た。
【SAFETY LIMIT:RELEASE REQUESTED】
三浦主任が処理を確認した。
「本人からです」
解除要求は受理されていた。
しかし、最終確認は実行されていない。
【SAFETY LIMIT:RELEASE REQUESTED】
【FINAL CONFIRMATION:PENDING】
【SEQUENTIAL RELAY CONTROL:ACTIVE】
「止まっています」
「どこで?」
「最終確認です」
オリヴィアは命令源の生体反応を開いた。
【COMMAND LOAD:78%】
【NEURAL STRESS:CRITICAL】
安全制限はまだ残っている。
それでも、解除可能な経路自体は開かれていた。
「解除されたら?」
三浦主任が処理予測を開いた。
【SIMULTANEOUS COMMAND:AVAILABLE】
【NEURAL FAILURE RISK:HIGH】
「中継の順番を無視できます」
「全部へ同時に?」
「理論上は」
オリヴィアは予測結果を確定情報へ入れなかった。
【SAFETY OVERRIDE:PENDING】
安全制限が残っている現在でも、中央物流区画の状態変化は監査処理を上回り始めていた。
都市図が更新された。
更新が終わる前に別の区画が変化した。
【MAP UPDATE:RUNNING】
【STATE CHANGE:DETECTED】
【MAP UPDATE:RESTARTING】
再計算が始まった。
完了前に新しい変化が入った。
【STATE CHANGE:DETECTED】
【MAP UPDATE:RESTARTING】
三浦主任が画面を見た。
「追いつきません」
「予測を切って」
「全部ですか?」
「中央物流系だけ」
三浦主任が自動予測を停止した。
【CENTRAL LOGISTICS PREDICTION MODEL:OFFLINE】
【VERIFIED STATE ONLY:ACTIVE】
予測線が消えた。
確認済みの状態だけが残った。
オリヴィアは復旧班の配置を開いた。
「中央物流へ入っている班を二ブロック戻して」
「作業中の設備は?」
「固定できる場所まで固定して退避」
無人機の位置も表示した。
「中央周辺の三機を分岐点へ」
「追跡させませんか?」
「固定監視に変更」
「了解」
医療搬送班の待機位置を開いた。
「南側待機点を一つ下げて」
「負傷者回収ですか?」
「まだ違う」
「待機を継続?」
「生体反応が崩れた時に動ける位置へ」
[世界政府]防衛部隊の配置も確認した。
「防衛線は維持」
三浦主任が中央物流側を示した。
「寄せませんか?」
「寄せたら巻き込まれる」
「ネクス・ハウンズは?」
「待機を維持」
オリヴィアは作戦条件を更新した。
【NEX HOUNDS:OPERATION UPDATE】
【RECOVERY PRIORITY:MAINTAIN】
【CURRENT RECOVERED SUBJECTS:SECURE TRANSFER FIRST】
【CENTRAL COMMAND AREA:DIRECT ENTRY/HOLD】
【INTERCEPTION:SAFE ROUTE REQUIRED】
リッジから通信が入った。
『確認した』
「優先順位は変えない」
『スプロケットが最優先』
「ええ」
『生存回収』
「絶対条件」
『安全経路ができたら動く』
「こちらからも送る」
『了解』
通信が切れた。
中央物流センターの状態が再び変化した。
【TOKYO CITY OPERATION MAP】
【WORLD GOVERNMENT CONTROL:PARTIAL】
【CENTRAL-01 COMMAND NETWORK:ACTIVE】
【LOCAL CONTROL DENSITY:RISING】
【SAFETY LIMIT:RELEASE PENDING】
【COMMAND-DISCONNECTED SECTOR:1】
【LEGACY NETWORK:PARTIAL】
【SUBJECT GROUP:6】
【CURRENT LOCATION:UNRESOLVED】
【PREDICTION RELIABILITY:LOW】
現在位置は確定できなかった。
誰が状態を変えたのかは追跡できていた。
CENTRAL-01は命令網の再配置を続けていた。
マッハラインは完成する前の配置を崩していた。
六人は中央命令源を持たないまま再合流していた。
スプロケットは命令網へ接触していた。
スプロケット自身の命令へ置き換えた形跡はなかった。
局地的な命令網だけが切断されていた。
Mr.Xはスプロケットを最優先回収対象へ変更した。
PROJECT INTER-FACEへの反応は一般作戦系統から隔離されたままだった。
どれも確認できた事実だった。
一つの答えへまとめるだけの情報はまだなかった。
オリヴィアはスプロケットの秘匿記録を開いた。

【SUBJECT:SPROCKET】
【RECOVERY PRIORITY:01】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【LEGACY AUTHORIZATION RESPONSE:CONFIRMED】
【PROJECT INTER-FACE CORRELATION:RESTRICTED】
【COMMAND SEVERANCE:CONFIRMED】
【PRIORITY BASIS:PARTIAL】
【ADDITIONAL AUDIT:ACTIVE】
最優先回収という結論は変えなかった。
危険という評価も消さなかった。
確認できていない部分も埋めなかった。
中央物流センターの状態が再び更新された。
【MAP STATUS:REMAP REQUIRED】
オリヴィアは再計算を実行した。
都市の盤面も変わっていた。
回収対象の順位も変わっていた。
Mr.Xから共有されている情報の意味も変わっていた。
スプロケットだけは監査上の位置づけをまだ終えられなかった。
オリヴィアはその項目を閉じなかった。


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