第1部『404_NOT_FOUND』INTERRUPT_07|CHOICE

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クロス・バグ三部作(絶賛連載中)

INTERRUPT_07|CHOICE

 中央物流区画から取得できる情報の精度が再び落ちた。

【CENTRAL LOGISTICS RELAY:UNSTABLE】
【EXTERNAL LINK:INTERMITTENT】
【FACILITY TELEMETRY:PARTIAL LOSS】

 オリヴィア・オコネルは現在位置の再計算を止めた。

「三浦主任、中央物流だけ切り出して」

「了解です」

 第三解析班の共有画面から周辺区画が外された。

 監視映像が途切れていた。

 施設通信も欠落していた。

 生体検出にも同じ周期の空白があった。

 外部中継まで連動していた。

【INTERFERENCE CYCLE:REPEATING】
【EQUIPMENT FAILURE:UNLIKELY】
【BIOLOGICAL SOURCE:PROBABLE】

「復旧ノードを混ぜないで」

「独立系だけ拾います」

 三浦主任が正常なANIノードと中央物流側の記録を分離した。

 オリヴィアは外周監視へ別の処理を回した。

【CLEAN ANI NODES:7】
【CONTAMINATED NODES:EXCLUDED】
【OUTER OBSERVATION:MAINTAIN】

「無人監視は外周へ固定」

「中央へ入れませんか?」

「今入れても見えなくなるだけ」

 オリヴィアは発生源を下層へ絞った。

 使用停止された旧危険物搬送区画から一つの生体反応が返っていた。

【UNKNOWN SUBJECT】
【CLASS:AWAKENED/PROBABLE】
【INTERFERENCE RANGE:EXPANDING】
【COMMAND CORRELATION:WATARU WATANABE】

 渡辺亘の命令網との相関は高かった。

 生体反応が強まるたびに中央中継設備の通信状態が悪化していた。

 スプロケットたち六人も妨害範囲へ入っていた。

 二つの手動設備が動いた。

【NORTH SHIELD:MANUAL OPERATION】
【SOUTH SHIELD:MANUAL OPERATION】

 北側で高速移動反応が検出された。

【SUBJECT:MACHLINE】
【IDENTITY CORRELATION:HIGH】

 南側では人物識別まで取れなかった。

 北側の隔壁が閉じた。

 南側も少し遅れて閉鎖された。

【NORTH SHIELD:LOCKED】
【SOUTH SHIELD:LOCKED】

 電子妨害の範囲が縮小した。

【BIOLOGICAL INTERFERENCE:CONTAINED】
【CENTRAL RELAY:PARTIAL RECOVERY】

「倒した?」

 三浦主任が生体情報を開いた。

「生きてます」

 妨害個体の反応は残っていた。

「なら排除ではない」

「遮蔽区画へ閉じ込めたようです」

「結果だけ残して」

【AWAKENED SUBJECT:ALIVE】
【INTERFERENCE:LOCALIZED】
【NEUTRALIZATION:NOT DETECTED】

 中央中継設備が部分復旧した。

 旧設備から別の反応が返った。

【LEGACY MAINTENANCE ROUTE:RESPONSE DETECTED】

 現在図には存在しない経路だった。

 政府復旧時の統合データにも登録されていなかった。

 南側遮蔽区画から補助ロックへ短い参照経路だけが生成されていた。

【REFERENCE SOURCE:UNRESOLVED】
【ROUTE GENERATION:TEMPORARY】
【USER CORRELATION:SPROCKET/HIGH】

「またですね」

「ええ」

 オリヴィアはスプロケットの監査記録を開いた。

【SUBJECT:SPROCKET】
【LEGACY AUTHORIZATION:PARTIAL MATCH】
【LEGACY RESPONSE:REPEATED】
【UNREGISTERED ROUTE RESPONSE:REPEATED】

 本人から明確な認証要求は出ていなかった。

 それでも旧設備側が応答していた。

 Mr.Xから送られた回収条件も残っていた。

【PRIORITY 01:SPROCKET】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
【DECLARED PRIORITY BASIS:ABILITY RISK】

 中央中継設備で新しい処理が始まった。

【SUBJECT:CHRONIAS】
【CURRENT LOCATION:REQUESTED】

 複数の参照情報が返った。

【MATCHING REFERENCES:MULTIPLE】
【LOCATION CONFLICT:DETECTED】

 三浦主任が表示を分けた。

「過去記録を別にします」

「現在の条件は?」

「生体変化を優先すれば切れます」

「やって」

【BIOLOGICAL PRIORITY:ENABLED】
【PAST REFERENCES:ARCHIVED】
【CURRENT SUBJECT CANDIDATE:1】

 現在の身体にしか存在しない情報が抽出された。

 傷。

 体温。

 心拍。

 現在時刻に発生した音声。

 過去記録が持てない変化だけが現在判定へ残った。

【SUBJECT:CHRONIAS】
【CURRENT LOCATION:LOCKING】

 数秒後に判定が確定した。

【CURRENT LOCATION:CONFIRMED】

「一人になりました」

「回収対象を更新して」

【PRIORITY 02:CHRONIAS】
【IDENTIFICATION RELIABILITY:INCREASED】
【LIVE RECOVERY:VALID】

 クロニアスに複数の時間情報が残る理由は未解決だった。

 現在生きている一個体を回収する条件だけは整った。

 中央中継設備が外部送信を始めた。

【EXTERNAL TRANSMISSION:STARTED】
【SUBJECT:CHRONIAS】
【DESTINATION:UNRESOLVED】

 送信先は都市外だった。

 スプロケットたちの行動も同じ目的へ収束していた。

【PROBABLE OBJECTIVE:CHRONIAS EXTRACTION】

「都市に残る気はなさそうですね」

「今のところは」

 オリヴィアは一般監査画面から視線を外した。

 個人端末だけで秘匿層を開いた。

【PROJECT INTER-FACE】
【SEARCH BEHAVIOR:NOT DETECTED】
【EXTERNAL ACCESS PATH:RESPONSE REPEATED】

 スプロケットはPROJECT INTER-FACEを探していない。

 それでも経路側が反応していた。

 オリヴィアは秘匿画面を閉じた。

「[ネクス・ハウンズ]の状況を」

 三浦主任が作戦回線を開いた。

【UNIT:[ネクス・ハウンズ]】
【CURRENT RECOVERY:COMPLETE】
【TEAM STATUS:AVAILABLE】
【CENTRAL LOGISTICS DIRECT ENTRY:HOLD】

 リッジが応答した。

『こちらリッジ』

「中央物流外周へ移動して」

『直接入る?』

「入らない」

『対象は中だ』

「出てくる可能性が上がった」

 一拍だけ間があった。

『回収条件は』

「全員生存」

『最優先』

「スプロケット」

『了解』

 通信の向こうで別の声が重なった。

『ハリアー、上空経路へ』

『了解』

『セッター、外周監視を取れ』

『接続する』

『プロット、捕獲区域を準備』

『位置を送れ』

『ドゴは地上固定点』

『入った』

 五つの位置情報が動き始めた。

【H-01 RIDGE:TACTICAL INTEGRATION】
【H-02 HARRIER:UPPER APPROACH】
【H-03 DOGO:GROUND FIXED POINT】
【H-04 SETTER:UNMANNED OBSERVATION】
【H-05 PLOTT:CAPTURE ZONE PREPARATION】

 オリヴィアは彼らの配置へ細かな経路指定を加えなかった。

 必要なのは回収条件と禁止区域だけだった。

「中央物流の中へはまだ入らないで」

『既知経路を押さえる』

「任せます」

 通信を維持したまま監査画面へ戻った。

 西部搬送区画で渡辺亘の命令網が変化した。

【WATARU WATANABE】
【DISTRIBUTED COMMAND LOAD:DECREASING】
【REMOTE SUBJECT LINKS:DROPPING】
【PRIMARY CHANNEL:CONCENTRATING】

 ロストへの遠方命令が減った。

 リピーターへの個別指示も減少した。

 ブーステッドへの出力も下がった。

 一個体だけへ命令負荷が集中した。

 同時に保留されていた安全制限解除処理が再び動いた。

【SAFETY LIMIT:RELEASE PENDING】
【FINAL CONFIRMATION:RECEIVED】

 三浦主任が処理を開いた。

「最終確認が入りました」

「本人?」

「はい」

 前回は実行されなかった最後の確認が、今度は通過した。

【SAFETY LIMIT:RELEASED】
【SEQUENTIAL RELAY CONTROL:DISABLED】
【MODE:《GOD MODE》】
【STATUS:INITIALIZING】

 渡辺亘の神経負荷が急激に上昇した。

【NEURAL LOAD:RISING】
【PHYSICAL FAILURE RISK:HIGH】

「解除した」

 三浦主任が表示を追った。

「前に止めた処理です」

 オリヴィアは命令負荷の集中先を開いた。

【PRIMARY AWAKENED SUBJECT】
【COMMAND LOAD:RAPID INCREASE】
【BIOLOGICAL MASS:HIGH】
【CONTROL CORRELATION:WATARU WATANABE】

 大型生体反応が移動を始めた。

【MODE:《GOD MODE》】
【STATUS:ACTIVE】

 隔壁が破損した。

 床面振動も上昇した。

 進路上にいた変異市民も巻き込まれていた。

 渡辺亘から回避命令は出ていなかった。

【COLLATERAL LOSS:ACCEPTED/PROBABLE】

 施設側へ命令内容の一部が残った。

【TARGET:SPROCKET】
【CONDITION:CAPTURE】
【OTHER SUBJECTS:LETHAL RESPONSE/POSSIBLE】

 三浦主任が画面を見た。

「またスプロケットです」

「見ています」

「渡辺亘の方は理由が分かります」

 オリヴィアは返答を待った。

「命令網に触れる」

「旧設備も使う」

「配置した個体を切り離す」

「捕まえたい理由としては十分です」

「Mr.Xは?」

 三浦主任の視線が回収順位へ移った。

「今の情報が出る前でしたよね」

「そうです」

「解析側の記録だけでは根拠が足りません」

 オリヴィアはMr.Xの指示を変更しなかった。

「足りないまま残して」

 三浦主任が一度だけオリヴィアを見た。

「了解です」

【WATARU WATANABE:SPROCKET PRIORITY BASIS/OBSERVABLE】
【MR.X:SPROCKET PRIORITY BASIS/UNRESOLVED】

 大型個体が中央中継設備へ接近した。

 マッハラインの高速反応も動いた。

 アイリーと相関する高出力反応が正面へ入った。

【SUBJECT:AIRIE】
【CURRENT OUTPUT:HIGH】
【DIRECT FORCE APPLICATION:DETECTED】

 大型個体の進路が僅かに変化した。

 搬送設備との衝突が発生した。

 移動が一時的に止まった。

【COMBAT BEHAVIOR:TRAJECTORY CONTROL/CONFIRMED】
【DIRECT DESTRUCTION:LOW】

 秋山明の周辺でも設備破損が発生した。

【SUBJECT:AKIYAMA AKIRA】
【MATERIAL DISRUPTION:CORRELATED】
【PHYSICAL CONDITION:DETERIORATING/PROBABLE】

 クロニアスは集団中央付近から大きく動いていなかった。

 ヴァレンも弱い生体反応の近くに残っていた。

 マッハラインは別の設備へ移動した。

【PHYSICAL SEVERANCE POINT:1/3】

 渡辺亘が利用していた施設位置情報の一部が消えた。

 高速反応が次の区画へ移った。

【PHYSICAL SEVERANCE POINT:2/3】

 三浦主任が二つの時刻を並べた。

「スプロケット側の設備参照が先です」

「確定?」

「音声が取れていないので相関まで」

【ROUTE SELECTION SOURCE:SPROCKET/PROBABLE】
【PHYSICAL EXECUTION:MACHLINE】
【COOPERATIVE ACTION:HIGH CORRELATION】
【CENTRAL COMMAND:NOT DETECTED】

 六人を統率する中央命令源は存在しなかった。

 それでも役割は分かれていた。

 オリヴィアは構造だけを保存した。

 中央中継設備へ大きな衝撃が入った。

【EXTERNAL TRANSMISSION:INTERRUPTED】
【SUBJECT:CHRONIAS】
【COMPLETION:67%】

 通常回線が切れた。

 別の接続が開いた。

【LEGACY CONTACT:ACTIVE】
【SOURCE ROUTE:UNREGISTERED】
【AUTHORIZATION ORIGIN:UNRESOLVED】
【SPROCKET CORRELATION:HIGH】

 短い経路情報が生成された。

 三浦主任が何も言わなくなった。

 先ほどまで小さく続いていた確認の声も止まっていた。

 オリヴィアは別の画面を見たまま呼んだ。

「三浦主任」

「今見ています」

 数秒後に二つの時刻が拡大された。

【LEGACY DATA GENERATED:T+00.000】
【WATARU WATANABE COMMAND:T+02.418】

「監査官」

「何ですか」

「これ逆です」

 オリヴィアは画面を切り替えた。

「補正は?」

「機器時計を確認しました」

「通信遅延も引いてます」

「時刻同期も三系統で取り直しました」

「結果は?」

「変わりません」

 三浦主任が経路情報と渡辺亘の命令を重ねた。

【VECTOR MATCH:CONFIRMED】
【PREDICTION DATA:PRECEDES COMMAND】

「命令より2.418秒前に同じ進路が出ています」

「誤差では?」

「誤差なら誤差だと確認します」

 三浦主任はもう一度数値を見た。

「これは残ります」

 オリヴィアは判断を保留しなかった。

「原記録を固定」

「了解」

「複製を私の管理層へ」

 三浦主任が一瞬だけ手を止めた。

「共有外ですか?」

「ええ」

「分かりました」

 複製された記録が一般監査画面から切り離された。

 オリヴィアは秘匿層へ送った。

【PROJECT INTER-FACE】
【LEGACY RESPONSE:REPEATED】
【LEGACY PRE-RESPONSE:DETECTED】
【SOURCE:UNRESOLVED】

 発生源は確定できなかった。

 スプロケット自身が予測した可能性も残った。

 旧設備側が先に情報を持っていた可能性も残った。

 別の接続元が存在する可能性も消せなかった。

 オリヴィアは推測を増やさなかった。

 旧接続反応が深くなった。

【LEGACY LAYER:ACTIVE】
【WATARU COMMAND LAYER:ACTIVE】
【LAYER RELATION:OVERLAP DETECTED】

 渡辺亘の命令網より古い位置に接続層があった。

 その層へ書き込み可能状態が発生した。

【WRITE PATH:AVAILABLE】
【COMMAND INSERTION:POSSIBLE/PROBABLE】

「三浦主任」

「見ています」

「渡辺亘側の命令経路は維持?」

「維持しています」

「書き込み側は?」

「開いてます」

 オリヴィアは可能性評価を実行した。

【SIMULATION】
IF COMMAND INSERTION EXECUTED:
WATARU CONTROLLED SUBJECTS → REDIRECTION POSSIBLE
LOCAL COMMAND SOURCE → REPLACEMENT POSSIBLE
PRIMARY AWAKENED SUBJECT → TARGET CHANGE POSSIBLE

 渡辺亘の命令を上書きできる可能性があった。

 変異市民へ別の指示を流せる可能性もあった。

 大型個体の標的を変更できる可能性まで残った。

【SYSTEM INTERACTION RISK:HIGH】

 オリヴィアは秘匿記録をMr.Xへ送った。

 返答はすぐに来た。

【SECURE SYNC:CONNECTED】

『確認した』

「システム干渉リスクを上げます」

『回収条件は変えるな』

「変更しません」

『生存確保』

「承知しています」

 回線が切れた。

【SECURE SYNC:CLOSED】

 Mr.Xは観測継続を求めなかった。

 回収条件も変えなかった。

 オリヴィアも回収順位を変更しなかった。

 実行ログだけを待った。

【WRITE PATH:OPEN】

 一秒が経過した。

【COMMAND OUTPUT:NONE】

 三浦主任が書き込み経路を確認した。

「まだ開いてます」

 時間が経過した。

【COMMAND OUTPUT:NONE】

「失敗?」

「そうは見えません」

「理由は?」

「経路が閉じてない」

 三浦主任が別処理を開いた。

【TARGET CONNECTION:PRIMARY AWAKENED SUBJECT】
【SEPARATION PROCESS:ACTIVE】

「処理先が変わってます」

 渡辺亘と大型個体を結んでいた接続が細くなった。

【COMMAND INSERTION:NONE】
【CONTROL TAKEOVER:NONE】
【CONNECTION SEVERANCE:ACTIVE】

 オリヴィアは表示を拡大した。

 書き込み経路は最後まで利用可能だった。

 命令は出なかった。

 支配権の取得も始まっていなかった。

 接続の切断だけが進んでいた。

 三浦主任が一度息を吐いた。

「訂正します」

「何を?」

「使えなかったんじゃない」

 切断処理が進んだ。

「使わなかった」

【AVAILABLE OPTION:COMMAND REPLACEMENT】
【EXECUTION:REJECTED】
【SELECTED PROCESS:SEVERANCE】

 大型個体との接続が切れた。

【PRIMARY AWAKENED SUBJECT】
【WATARU COMMAND LINK:LOST】
【NEW COMMAND SOURCE:NONE】

 対象の移動が一度止まった。

 次に周囲の大きな振動へ反応して動き始めた。

 渡辺亘から再接続要求が出た。

【RECONNECT REQUEST:FAILED】

 新しい命令源は発生しなかった。

 スプロケット側からも命令は出ていなかった。

 大型個体自身の反応だけが残った。

 上層で最後の物理切断も成立した。

【PHYSICAL SEVERANCE POINT:3/3】
【FACILITY TRACKING:DEGRADED】
【POSITION CORRECTION:LOST】

 渡辺亘の命令が衝突し始めた。

【COMMAND CONFLICT:INCREASING】

 スプロケット側の接続反応がさらに強くなった。

【SPROCKET:DEEP NETWORK CONTACT】

 オリヴィアは渡辺亘と市民側の反応を分けた。

【WATARU WATANABE】
【COMMAND SOURCE:ACTIVE】
【CONNECTED SUBJECTS:MULTIPLE】
【SUBJECT RESPONSES:MULTIPLE】
【COMMAND CORRELATION:ACTIVE】

 両者を結ぶ接続だけが剥がれ始めた。

【COMMAND SOURCE:SEPARATING】
【CONNECTED SUBJECTS:DECREASING】

 渡辺亘の神経負荷も低下した。

【NEURAL LOAD:DECLINING】
【DISTRIBUTED RESPONSE:COLLAPSING】

 最後の接続が消えた。

【CONNECTED SUBJECTS:0】
【COMMAND SOURCE:ISOLATED】

 中央物流センターから統一された行動が消えた。

 ロストは別々の方向へ動いた。

 リピーターは生前の反復へ戻った。

 ブーステッドは近い刺激へ反応した。

 大型個体も独自に動き始めた。

 正常化したわけではなかった。

 渡辺亘の命令だけが消えていた。

「中央物流の独立ANIを戻して」

 三浦主任が顔を上げた。

「今ですか?」

「今だから」

 オリヴィアは復旧権限を開いた。

【CENTRAL LOGISTICS】
【WATARU COMMAND NETWORK:OFFLINE】
【CLEAN ANI NODE RECONNECTION:AUTHORIZED】

「汚染判定が残るノードは触らない」

「独立系だけ戻します」

「復旧班は?」

「外周待機」

「入れて」

 三浦主任が回線を開いた。

「医療班も中央外周へ」

「回収対象は渡辺亘ですか?」

「残れば」

 オリヴィアは別の作戦欄を作った。

【BRANCH A】
【WATARU WATANABE:REMAINS IN CENTRAL LOGISTICS】
【ACTION:WORLD GOVERNMENT LIVE RECOVERY】

「残らなかった場合は?」

「もう一つ作る」

【BRANCH B】
【WATARU WATANABE:MOVES WITH SUBJECT GROUP】
【ACTION:NEX HOUNDS LIVE RECOVERY】

 三浦主任が二つの処理を見比べた。

「どちらでも回収する」

「そういうことです」

 中央中継設備から外部送信が再開した。

【EXTERNAL TRANSMISSION:RESUMED】
【SUBJECT:CHRONIAS】
【COMPLETION:87%】

 通常回線ではなかった。

 破損区画を迂回する旧経路が使われていた。

【ROUTE:UNREGISTERED LEGACY PATH】
【SPROCKET CORRELATION:HIGH】

 送信が完了した。

【EXTERNAL TRANSMISSION:COMPLETE】
【SUBJECT:CHRONIAS】
【POSITION DATA:TRANSMITTED】

 都市外から応答が返った。

【REMOTE MOORING RESPONSE:DETECTED】
【DESTINATION:UNRESOLVED】

 スプロケットたちの目的はほぼ固まった。

【SPROCKET GROUP】
【PRIMARY OBJECTIVE:CHRONIAS EXTRACTION】
【CONFIDENCE:HIGH】

 クロニアスを連れ出すために中央物流区画へ戻っていた。

 トーキョー・シティへ残る行動とは一致しなかった。

 PROJECT INTER-FACEを探している行動とも一致しなかった。

 オリヴィアは[ネクス・ハウンズ]へ回線を戻した。

『こちらリッジ』

「状況は?」

『外周到達』

 五人の位置が表示された。

【UNIT:[ネクス・ハウンズ]】
【CENTRAL LOGISTICS:ENCIRCLEMENT ACTIVE】
【KNOWN EGRESS ROUTES:COVERAGE IN PROGRESS】
【DIRECT ENTRY:HOLD】

『現行経路は押さえられる』

「旧保守層は?」

『セッター』

『登録区画は取れてる。旧層は途中から信号がない』

 オリヴィアは第三解析班の共有画面へ旧都市図を戻した。

「三浦主任、旧保守層だけ見て」

「了解です」

 三浦主任が現行図と旧施設図を重ねた。

 現行搬送路。

 上層連絡路。

 地上保守経路。

 登録されている経路は[ネクス・ハウンズ]の配置へ重なった。

 一部だけ線が途中で切れていた。

【LEGACY MAINTENANCE LAYER:PARTIAL】
【ROUTE CONTINUITY:UNRESOLVED】
【REMOTE MONITORING:UNAVAILABLE】

「監査官。ここだけ閉じません」

「位置は?」

「入口候補まではあります。その先の接続記録がありません」

「現在図では?」

「経路として登録されていません」

 オリヴィアは欠落部分を埋めなかった。

「未確認経路で残して」

「了解です」

 作戦回線へ戻した。

「現行経路を押さえて。旧保守層へは入らないで」

『探さない?』

「地図がない場所へ五人を散らさないで」

 リッジの返答は早かった。

『了解』

 通信の向こうで短い指示が続いた。

『ハリアー、上を残せ』

『了解』

『ドゴ、地上側を固定』

『入った』

『セッター、登録区画だけ監視』

『取った』

『プロット、現行経路を削れ』

『見えてる道からやる』

 五つの位置が中央物流センターの外周へ分かれた。

【H-01 RIDGE:TACTICAL INTEGRATION】
【H-02 HARRIER:UPPER ROUTE CONTROL】
【H-03 DOGO:GROUND FIXED POINT】
【H-04 SETTER:REGISTERED SECTOR OBSERVATION】
【H-05 PLOTT:KNOWN EGRESS CONTROL】

 オリヴィアは細かな配置へ手を加えなかった。

 リッジが現場を組み替えていた。

 必要なのは対象と条件と、入ってはいけない場所だけだった。

 統合管制室付近で六人の反応が渡辺亘の生体反応へ接近した。

【SUBJECT GROUP:6】
【WATARU WATANABE:BIOLOGICAL SUBJECT/ALIVE】
【DISTANCE:DECREASING】

 攻撃準備は確認できなかった。

 拘束設備も使われていなかった。

 渡辺亘へ向けた新しい制御接続も発生しなかった。

【SPROCKET CONTROL OVER WATARU:NONE】
【FORCED COMMAND:NONE】

 三浦主任がスプロケットの実行履歴を開いた。

【LEGACY ACCESS:REPEATED】
【LEGACY PRE-RESPONSE ACCESS:CONFIRMED】
【HIGH-LEVEL WRITE PATH:TEMPORARILY AVAILABLE】
【COMMAND REPLACEMENT:NOT EXECUTED】
【CONTROL TAKEOVER:NOT EXECUTED】
【SELECTED ACTION:NETWORK SEVERANCE】

「解析側としては、かなり増えました」

「何が?」

「スプロケットです」

 三浦主任が記録を示した。

「システム干渉上の危険度は確定」

「命令網への接続も確認」

「支配できる状態で支配しなかったことも残っています」

「ええ」

「回収後でも解析は続けられます」

「そうですね」

 三浦主任が中央物流側を見た。

「では中央へ入れます?」

「まだ」

「理由を聞いても?」

「目的は分かった」

「クロニアス」

「でも渡辺亘をどうするかはまだ分からない」

 三浦主任は一度だけオリヴィアを見た。

「監査官が『もう少し見る』側なのは珍しいですね」

「見ているだけではありません」

 オリヴィアは外周配置を表示した。

「既知経路は閉じています」

 三浦主任が旧保守層の欠落部分を見る。

「一つ残っています」

「だから中央へ入れない」

 三浦主任はそれ以上言わなかった。

「了解です」

 オリヴィアはスプロケットの評価項目を分けた。

【ABILITY RISK:HIGH】
【HOSTILE USE:NOT CONFIRMED】
【CONTROL ACQUISITION BEHAVIOR:NOT OBSERVED】

 能力が危険であることは変わらなかった。

 本人がその能力で支配を選んでいないことも変わらなかった。

 Mr.Xの判断を否定する材料にはならない。

 同じ判断だけでスプロケットを説明する材料にもならなかった。

 統合管制室周辺で六人の反応と渡辺亘の反応が重なった。

 渡辺亘の生体反応は消えなかった。

 命令網も復活しなかった。

【WATARU COMMAND NETWORK:OFFLINE】
【NEW CENTRAL COMMAND:NONE】

 オリヴィアは二つの回収処理を残した。

【BRANCH A】
【WATARU WATANABE:REMAINS IN CENTRAL LOGISTICS】
【ACTION:WORLD GOVERNMENT LIVE RECOVERY】
【BRANCH B】
【SUBJECT GROUP:REGISTERED EGRESS】
【ACTION:[ネクス・ハウンズ] LIVE INTERCEPTION】

 その下へ未確定項目を追加した。

【UNRESOLVED BRANCH】
【LEGACY EGRESS:POSSIBLE】
【ROUTE POSITION:UNKNOWN】

 三浦主任が表示を確認した。

「三つ目ですか」

「二つと未確定一つ」

「未確定は作戦になりません」

「だから未確定のまま残します」

「位置が出たら?」

「組み替えます」

 [ネクス・ハウンズ]から状況更新が入った。

『現行経路は押さえた』

 セッターの監視情報も続いた。

『登録区画に抜けはない』

 プロットが短く加えた。

『見えてる道なら通さない』

 リッジがまとめた。

『旧保守層だけ取れない』

「そのまま維持して」

『中央へ入る?』

 オリヴィアは渡辺亘と六人の反応を見た。

「まだ」

『了解』

 [ネクス・ハウンズ]は中央物流センターへ踏み込まなかった。

 外周の配置は崩さなかった。

 オリヴィアはスプロケットの記録へ最後の項目を追加した。

【OVERRIDE OPTION:AVAILABLE】
【OVERRIDE EXECUTION:REJECTED】
【CHOICE:CONFIRMED】
【BEHAVIORAL CONSISTENCY:INCREASED】

 変異市民から渡辺亘の命令を外した。

 自分の命令には置き換えなかった。

 大型個体も支配しなかった。

 渡辺亘本人へ接近した後も強制命令は確認されていなかった。

 一度だけの結果ではなくなっていた。

 スプロケットが何を選ばないのかまで記録できるようになっていた。

 Mr.Xの回収条件は変わらない。

 [ネクス・ハウンズ]は既知経路を押さえている。

 中央物流側には[世界政府]の回収班が待機している。

 旧保守層だけが現在図の外に残っていた。

【UNIT:[ネクス・ハウンズ]】
【CENTRAL LOGISTICS:ENCIRCLEMENT ACTIVE】
【KNOWN EGRESS ROUTES:COVERED】
【LEGACY ROUTE MAP:INCOMPLETE】
【DIRECT ENTRY:HOLD】

 オリヴィアは欠落した経路を消さなかった。

 見えていないなら、見えていることにはしない。

【MR.X PRIORITY BASIS:PARTIALLY CONSISTENT】
【UNEXPLAINED PRIORITY:REMAINS】
【ADDITIONAL AUDIT:CONTINUE】

 中央物流センターの外周では五つの反応が止まっていた。

 待機ではない。

 既知の出口を塞いだまま、次の変化を待っていた。

 オリヴィアは中央への進入条件を解除しなかった。

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