中央物流センターを包囲していた[ネクス・ハウンズ]から進入報告が入った。
【UNIT:ネクス・ハウンズ】
【CENTRAL LOGISTICS CENTER:ENTRY】
【COMMAND NETWORK:INACTIVE】
【KNOWN EGRESS ROUTES:CONTROLLED】
渡辺亘の命令網は復活していなかった。
ロストは別々の方向へ歩いていた。
リピーターは同じ動作を繰り返していた。
ブーステッドは近くの刺激だけへ反応していた。
統一された動きはない。
「リッジ、中央へ入って」
『了解』
五つの位置情報が動いた。
【H-01 RIDGE:ENTRY】
【H-02 HARRIER:UPPER SECURITY】
【H-03 DOGO:GROUND ROUTE】
【H-04 SETTER:LOCAL SYSTEM ACCESS】
【H-05 PLOTT:REAR CLOSURE】
位置表示上でハリアーが上層連絡路へ移った。
ドゴの反応は中央通路へ入った。
プロット側から後方経路の閉鎖完了が返った。
セッターの端末だけが壁際の旧認証盤へ接続していた。
リッジは四人の動きを中央で統合している。
オリヴィア・オコネルは細かな経路指定を出さなかった。
そこから先は彼らの仕事だった。
「対象反応は?」
『生体反応はまだ取れてない』
セッターの声だった。
『でも施設側が動いてる』
【LOCAL AUTHENTICATION:DETECTED】
【NETWORK SYNC:NONE】
三浦主任が別の画面を開いた。
「認証者を照合します」
結果はすぐに出た。
【AUTHENTICATION ID:WATARU WATANABE】
【AFFILIATION:TOKYO CITY LIFE LOGISTICS CORPORATION】
【ASSIGNMENT:CENTRAL LOGISTICS CENTER】
【ROLE:EXCEPTION PROCESSING】
「渡辺亘」
オリヴィアは経路履歴を開いた。
【ROUTE HISTORY】
CENTRAL CONTROL ROOM
↓
STAFF MANUAL ACCESS
↓
FIRE PARTITION
↓
OLD DRAINAGE SECTOR
↓
NORTH EXTERNAL TRANSFER
三浦主任が続きを表示した。
NORTH EXTERNAL TRANSFER
↓
STAFF ROUTE
↓
CENTRAL LOGISTICS CENTER
「戻っています」
「一人?」
「北側までは複数です」
【GROUP CORRELATION:SEPARATED】
【RETURNING SUBJECT:WATARU WATANABE/HIGH】
スプロケットたちは北側へ進んだ。
渡辺亘だけが中央物流センターへ戻った可能性が高かった。
「こちらの包囲を認識していた?」
『認識できたはずだ』
リッジが答えた。
『政府識別信号は旧保守層へ入る前から出してる』
「逃げ道は?」
『本人が施設構造を覚えてるなら、こちらより多く知ってる』
「それでも戻った」
『そう見える』
オリヴィアは渡辺亘の記録を更新した。
【SUBJECT:WATARU WATANABE】
【ESCAPE CAPABILITY:POSSIBLE】
【ESCAPE ATTEMPT:NOT DETECTED】
【RETURN ACTION:VOLUNTARY/PROBABLE】
降伏とは記録しなかった。
逃走不能とも記録しなかった。
『見つけた』
ハリアーの声が入った。
リッジから送られている現場映像に一人の男が映った。
暗い職員通路。
赤い非常灯。
壁へ片手をついて歩いている。
右足を僅かに引きずっていた。
首から社員証が下がっていた。
位置表示上でリッジが停止した。
ドゴとハリアーが左右へ分かれる。
プロットは後方へ回った。
渡辺亘も映像の中央で足を止めた。
『渡辺亘』
『そうです』
渡辺亘は否定しなかった。
『抵抗する意思は?』
『今はありません』
『今は?』
『質問へ正確に答えただけです』
リッジはそれ以上確認しなかった。
『拘束する』
『好きにしてください』
ドゴの位置が渡辺亘へ近づいた。
渡辺亘は逃げなかった。
手を上げもしなかった。
映像の中で拘束具が両手首へ装着された。
【SUBJECT:WATARU WATANABE】
【BIOLOGICAL STATUS:ALIVE】
【NETWORK CONTROL:INACTIVE】
【RESISTANCE:NONE】
【LIVE RECOVERY:COMPLETE】
三浦主任が回収一覧を更新した。
「渡辺亘、回収完了」
【PRIORITY 06:WATARU WATANABE/RECOVERED】
「人物はね」
三浦主任の手が止まった。
「監査官?」
オリヴィアは映像に残る渡辺亘の胸元を見た。
「記録が残ってる」
プロットが所持品確認へ移った。
社員証へ手を伸ばす。
『それは外さないでください』
渡辺亘が自分から口を開いた。
『理由は?』
『施設内で必要です』
『もう移動しない』
『僕が使わなくても記録は残っています』
プロットが社員証の表示を確認した。
【認証者:渡辺亘】
【勤務状態:終了未処理】
『勤務状態が残ってる』
『知っています』
渡辺亘はそれ以上話さなかった。
「社員証をセッターへ」
『了解』
プロットが社員証を外さず認証面をセッターへ向けた。
セッターの携帯端末から認証要求が送られた。
【LOCAL AUTHENTICATION TOKEN:VALID】
【CENTRAL NETWORK SYNC:INCOMPLETE】
【LOCAL ACCESS HISTORY:AVAILABLE】
『取れる』
「現在図と照合して」
履歴が展開された。
【UNKNOWN LOCAL NODE:01】
【UNKNOWN LOCAL NODE:02】
【OLD MANUAL PARTITION:03】
【LEGACY MAINTENANCE NODE:04】
『合わない』
「何が?」
『現在図にない』
三浦主任も同じ記録を受け取った。
「旧図を出します」
比較結果が表示された。
「一部は一致します」
「一部?」
「改修前に存在した設備です」
「残りは?」
「統合記録にありません」
オリヴィアはスプロケットの移動履歴を横へ並べた。
【SUBJECT:SPROCKET】
【LAST VERIFIED:CENTRAL LOGISTICS CENTER】
【ROUTE HISTORY:MISSING】
【CURRENT CORRELATION:NORTH LOGISTICS DISTRICT】
記録の欠落区間が重なった。
渡辺亘の社員証だけが、その空白の内部を通過していた。
「前に取れなかった旧保守層」
三浦主任が表示を拡大した。
「一致します」
「見落としたわけじゃない」
「現在図に経路そのものがありませんでした」
オリヴィアは社員証履歴から経路だけを抽出した。
【LEGACY ROUTE:CONFIRMED】
【CURRENT CITY MAP:NOT REGISTERED】
【REMOTE MONITORING:NONE】
[ネクス・ハウンズ]が包囲しなかった経路ではない。
包囲に使用した現在図に存在しなかった経路だった。
同じ情報が現場回線へ送られた。
『なるほど』
リッジの声が返った。
『こっちの穴じゃなくて地図の穴か』
「そういうこと」
『次は記録に入れとく』
「お願いします」
セッターが渡辺亘の社員証を利用してローカルノードへ接続した。
【LOCAL NODE ACCESS:REQUESTING】
【AUTHENTICATION:ACCEPTED】
『まだある』
新しい表示が開いた。
【AUDIT PARTITION:DETECTED】
オリヴィアの視線が止まった。
「開いて」
『やってる』
【REMOTE EXTRACTION:DENIED】
『駄目』
「権限不足?」
『違う』
セッターから認証条件が送られた。
【NETWORK ACCESS:DISABLED】
【REMOTE AUDIT:NOT SUPPORTED】
【PHYSICAL AUTHENTICATION:REQUIRED】
三浦主任が別系統から同じ領域を確認した。
「必要権限を照合します」
【REQUIRED AUTHORITY:SPECIAL RECORDS AUDIT】
三浦主任がオリヴィアを見た。
「監査官」
「見えています」
現場からセッターの声が返った。
『オコネル監査官の権限だ』
「代理認証は?」
『拒否』
「セッターの端末へ委任した場合は?」
『それも駄目』
三浦主任も監査系統から代理処理を実行した。
【INITIAL AUDIT AUTHORIZATION】
【REMOTE:DENIED】
【DELEGATED:DENIED】
【ONSITE IDENTITY VERIFICATION:REQUIRED】
「監査官」
「何ですか」
「こちらでも同じです」
オリヴィアは結果を見た。
「遠隔では開かない」
「はい」
「代理も使えない」
「はい」
三浦主任はそれ以上の結論を付けなかった。
セッターが取得できる範囲だけを送ってきた。
【ARCHIVE STRUCTURE:DISTRIBUTED LOCAL STORAGE】
【ACTIVE NODES:MULTIPLE】
【CENTRAL COPY:NONE】
【REMOTE EXPORT:UNAVAILABLE】
「媒体ごと回収できる?」
『一台じゃ無理』
「数は?」
『今確認できるだけで中央物流センター内部に四つ』
続いて地図情報が更新された。
『旧排水区画に二つ』
さらに一つ反応が追加された。
『北部物流区画にもある』
【LEGACY AUDIT NODE:PARTIAL RESPONSE】
【SPROCKET CORRELATION:HIGH】
またスプロケットだった。
旧A.R.K.認証。
未登録経路。
認証要求より先に発生する設備応答。
渡辺亘の命令より先に生成された経路情報。
遠隔から取得できたのは結果だけだった。
原因へ続く記録は都市内部に残っている。
「三浦主任」
「はい」
「構造だけ保存して」
「了解です」
別の警告が入った。
【SUBJECT GROUP】
【PREVIOUS COUNT:6】
【CURRENT COUNT:5】
「一人減った」
三浦主任が照合した。
【SPROCKET:DETECTED】
【AIRIE:DETECTED】
【AKIYAMA AKIRA:DETECTED】
【CHRONIAS:DETECTED】
【MACHLINE:DETECTED】
【VAREN:SIGNAL LOST】
「ヴァレン」
オリヴィアは最後の反応を開いた。
【SUBJECT:VAREN】
【LAST VERIFIED AREA:NORTH LOGISTICS DISTRICT】
【LAST VECTOR:UNREGISTERED MAINTENANCE ACCESS】
【CURRENT LOCATION:UNRESOLVED】
「追える?」
三浦主任が周辺ノードを確認した。
「現在網では無理です」
現場側でもセッターが同じ結論を返した。
『最後の反応から先に監視設備がない』
「旧ノードは?」
『応答なし』
オリヴィアはヴァレンの分類を開いた。
【CLASSIFICATION:UNRESOLVED】
【RECOVERY ORDER:PENDING】
【TRACKING STATUS:UNAVAILABLE】
「捜索班を出しますか?」
「出さない」
「記録は?」
「残して」
【ACTIVE PURSUIT:NONE】
【REFERENCE PRESERVATION:CONTINUE】
「回収対象ではないから?」
「まだね」
三浦主任はそのまま記録した。
見失ったことと回収対象であることは別だった。
その直後に北部物流区画から登録設備の起動反応が入った。
【EMERGENCY MEDICAL TRANSFER STATION 03】
【LOCAL ACCESS:ACTIVE】
三浦主任が画面を切り替えた。
「五人です」
旧認証反応が続いた。
【LEGACY AUTHORIZATION:PARTIAL MATCH】
【SUBJECT CORRELATION:SPROCKET】
「現在網へ戻った?」
「はい」
未登録経路の中では消えていた五人が、登録設備へ接続したことで再び都市網へ現れた。
同じ情報がネクス・ハウンズへ送られる。
『位置が出た』
リッジの声が入った。
「距離は?」
『今なら追える』
オリヴィアは緊急医療搬送所のアクセス履歴を開いた。
【REGISTERED MEDICAL COORDINATE:ACCESSED】
【DESTINATION:MEDICAL SATELLITE DOME】
【FACILITY:EMERGENCY WING 06】
「クロニアス」
三浦主任が負傷記録を横へ出した。
「重傷です」
「なら次は救急棟六号」
「経路相関を取ります」
数秒後に結果が出た。
【MEDICAL TRANSFER LINE:PARTIAL OPERATION】
【SUBJECT GROUP MOVEMENT:MATCH】
【DESTINATION CORRELATION:EMERGENCY WING 06/HIGH】
「高相関です」
「十分」
ネクス・ハウンズの五つの位置情報が変化した。
中央物流センターへ向けられていた配置が解かれていく。
『監査官』
リッジからだった。
『医療搬送所へ向かう』
「渡辺亘は?」
『ドゴが搬送準備中』
「それを先に」
『その間にまた消える』
「もう次が分かってる」
オリヴィアは正式回収順位を表示した。
【PRIORITY 01:SPROCKET】
【PRIORITY 02:CHRONIAS】
【PRIORITY 03:MACHLINE】
【PRIORITY 04:AIRIE】
【PRIORITY 05:AKIYAMA AKIRA】
【PRIORITY 06:WATARU WATANABE/RECOVERED】
「追い回さなくていい」
三浦主任がオリヴィアを見た。
「直接追跡を止めますか?」
「対象を見失うという意味ではないわ」
オリヴィアは作戦更新を送った。
【OPERATION UPDATE REQUEST】
【DIRECT PURSUIT:SUSPEND】
【INTERCEPTION AREA:MEDICAL SATELLITE DOME】
【PRIMARY POINT:EMERGENCY WING 06】
【RECOVERY CONDITION:ALIVE】
承認はすぐに返った。
【UPDATE:AUTHORIZED】
「リッジ」
『聞いてる』
「渡辺亘を搬送したら医療衛星ドームへ」
『今度は途中で取らない?』
「目的地を取って」
一拍だけ間があった。
『了解』
作戦表示が更新された。
ハリアーの位置が先行経路へ移った。
ドゴは渡辺亘の搬送側へ残った。
セッターの監視対象が医療搬送線へ切り替わった。
プロットは新しい閉鎖候補の抽出を開始した。
リッジが全体をまとめて移動させた。
【UNIT:ネクス・ハウンズ】
【PRIMARY RECOVERY:WATARU WATANABE/COMPLETE】
【NEXT INTERCEPTION:EMERGENCY WING 06】
【STATUS:REPOSITIONING】
三浦主任が表示を確認した。
「対応が早いですね」
「だから使ってるの」
三浦主任はそれ以上何も言わなかった。
緊急医療搬送所の反応が変わった。
【MEDICAL TRANSFER ACCESS:ACTIVE】
【UNDERGROUND ROUTE:OPEN】
五人の位置反応が順番に消え始めた。
【SUBJECT GROUP:5】
【ROUTE:MEDICAL TRANSFER LINE】
【DIRECT SURFACE TRACKING:LOST】
【MOVEMENT:CONTINUING】
三浦主任が確認する。
「地下へ入りました」
「次の固定座標は?」
「救急棟六号」
「なら問題ない」
ネクス・ハウンズも同じ地点へ向かっていた。
オリヴィアは旧監査領域へ戻った。
【REMOTE AUDIT:DENIED】
【ONSITE IDENTITY VERIFICATION:REQUIRED】
「三浦主任」
「はい」
「別経路は?」
「監査系統を三つ試しました」
「結果は?」
三浦主任が表示を並べた。
【WORLD GOVERNMENT AUDIT NETWORK:DENIED】
【SPECIAL RECORDS REMOTE AUTH:DENIED】
【DELEGATED FIELD AUTH:DENIED】
「物理認証以外はありません」
「確定?」
三浦主任はもう一度条件を確認した。
「確定です」
オリヴィアは椅子の背から身体を離した。
「なら現地で開く」
三浦主任の手が止まった。
「監査官が行くんですか?」
「私の本人認証しか通らないのでしょう?」
「そうですが」
「なら私が行く」
三浦主任は反対しなかった。
「出発手配は?」
「こちらでやります」
「通常監査は?」
「引き継ぎます」
「旧監査領域は触らないで」
「了解です」
オリヴィアは極秘回線を開いた。
【SECURE CHANNEL:REQUESTED】
応答は早かった。
『何だ』
「現地へ入る」
短い沈黙があった。
『理由は』
「中央物流センターで旧監査領域を確認した」
『内容は』
「まだ読めない」
『なぜ』
「現地本人認証が必要」
オリヴィアは取得済みの記録を送った。
「遠隔も代理も拒否された」
「スプロケットが通過した旧経路と重なってる」
「ヴァレンも未登録経路へ消えた」
「渡辺亘の社員証から現在図にないノードも出た」
「ここから先は画面を見ていても増えない」
Mr.Xはすぐには答えなかった。
『決めたのか』
「ええ」
『許可する』
「止めないのね」
『止める理由がない』
「知られたくないものがあっても?」
『何を見つけるかも分からないのに止めるのか』
「あなたならやりそうだけど」
『必要ならな』
「今回は必要じゃない?」
『それもお前が判断しろ』
オリヴィアは目を細めた。
「スプロケットを最優先にした理由も?」
『それは別だ』
「またそこだけ隠す」
『現地監査とは関係ない』
「本当に?」
『少なくとも今は』
オリヴィアは返答を急がなかった。
「ネクス・ハウンズは救急棟六号へ回した」
『承認済みだ』
「私は中央物流センターから入る」
『分かった』
「その後は記録次第」
『一つだけ』
「何?」
『スプロケットを見つけても一人で接触するな』
「能力が危険だから?」
『そうだ』
「それだけ?」
『今はそれで十分だ』
「分かった」
『納得したのか』
「してない」
『なら問題ない』
回線が切れた。
【SECURE CHANNEL:CLOSED】
Mr.Xは現地行きを命じなかった。
オリヴィアが決めた後で承認しただけだった。
理由の一部はまだ渡さなかった。
それでも旧監査領域へ触れることは止めなかった。
【MR.X INTENT:UNRESOLVED】

オリヴィアはその項目を保留した。
今必要なのはMr.Xの意図ではない。
現地へ入る準備だった。
「三浦主任」
「はい」
「引き継ぎます」
三浦主任が監査卓を切り替えた。
【PRIMARY REMOTE AUDIT:TRANSFER】
【FROM:OLIVIA O'CONNELL】
【TO:MIURA NAOTO】
「通常復旧記録は今まで通り」
「はい」
「渡辺亘の搬送記録も継続」
「はい」
「ネクス・ハウンズの作戦記録は?」
「こちらで残します」
「ヴァレン」
「位置不明。追跡なし。参照保存を継続します」
「スプロケット」
三浦主任が一度だけ画面を確認した。
「最優先回収対象」
「それだけ?」
三浦主任の視線がオリヴィアへ戻った。
「続きは監査官が現地で確認するのでしょう?」
「そうね」
三浦主任はそれ以上聞かなかった。
オリヴィアは現地監査申請を開いた。
【SPECIAL RECORDS AUDIT】
【CURRENT MODE:REMOTE】
【AVAILABLE CHANGE:ONSITE】
本人認証。
【AUTHORIZED PERSONNEL:OLIVIA O'CONNELL】
目的地。
【PRIMARY LOCATION:TOKYO CITY】
【INITIAL AUDIT AREA:CENTRAL LOGISTICS CENTER】
監査対象を設定した。
【PRIMARY SUBJECT:SPROCKET】
【AUDIT OBJECTIVES】
【LEGACY ACCESS HISTORY】
【A.R.K. CORRELATION】
【UNREGISTERED CONNECTION SOURCE】
【LOCAL AUDIT ARCHIVE RECOVERY】
ヴァレンを追加した。
【SECONDARY SUBJECT:VAREN】
【STATUS:LOCATION UNRESOLVED】
【ACTION:REFERENCE PRESERVATION】
申請を送った。
【ONSITE AUDIT:REQUESTED】
承認まで数秒もかからなかった。
【ONSITE AUDIT:AUTHORIZED】
三浦主任が表示を見た。
「早いですね」
「予想していたでしょう?」
「監査官が決めてからなら」
オリヴィアは監査端末から携行端末へ記録を移した。
スプロケット。
アイリー。
クロニアス。
マッハライン。
秋山明。
渡辺亘。
ヴァレン。
旧A.R.K.認証履歴。
現在図から消えた旧保守経路。
渡辺亘の社員証が残したローカル認証。
旧監査領域のノード一覧。
Mr.Xの最優先回収指示。
最後にスプロケットの項目が残った。
【SUBJECT:SPROCKET】
【DECLARED PRIORITY BASIS:ABILITY RISK】
【ABILITY RISK:HIGH】
【SYSTEM INTERACTION RISK:HIGH】
【HOSTILE USE:NOT CONFIRMED】
【ADDITIONAL BASIS:UNRESOLVED】
オリヴィアは閉じなかった。
そのまま携行端末へ移した。
【TRANSFER:COMPLETE】
現場から最後の更新が入った。
【WATARU WATANABE】
【RECOVERY:COMPLETE】
【TRANSPORT:IN PROGRESS】
続いてネクス・ハウンズの作戦情報が更新された。
【SUBJECT GROUP:5】
【MEDICAL TRANSFER ROUTE:ACTIVE】
【DESTINATION:MEDICAL SATELLITE DOME】
【UNIT:ネクス・ハウンズ】
【INTERCEPTION PREPARATION:ACTIVE】
三浦主任がオリヴィアへ顔を向けた。
「監査官」
「何ですか」
「こちらは引き継ぎます」
「お願いします」
それだけだった。
オリヴィアは監査卓の中央画面を閉じた。
【REMOTE AUDIT:ENDING】
オリヴィアは監査室の扉を開いた。
三浦主任が数歩だけ後ろをついてきた。
通常職員用の昇降機を通り過ぎる。
さらに奥の壁面へオリヴィアが手を触れた。
【IDENTITY:OLIVIA O'CONNELL】
【SPECIAL TRANSFER ACCESS:AUTHORIZED】
継ぎ目のなかった壁が左右へ開いた。
三浦主任が足を止めた。
「監査官」
「何ですか」
「専用機を使うんですか」
「ええ」
三浦主任は開いた通路の奥を見た。
「急ぎですね」
「遠隔で開かないなら現地へ行くしかないでしょう」
「それはそうですが」
三浦主任はそれ以上聞かなかった。
「こちらはお願いします」
「引き継ぎます」
「何か変わったら送って」
「監査官が移動中でも?」
「そのための回線があります」
「分かりました」
オリヴィアは通路へ入った。
三浦主任はついてこなかった。
扉が閉じる。
【SPECIAL TRANSFER AREA】
【AUTHORIZED PERSONNEL:1】
一般監査系統との接続が切れた。
代わりに別の認証経路が起動した。
【PRIVATE ADMINISTRATIVE NETWORK:ACTIVE】
【PUBLIC DIRECTORY:DISCONNECTED】
照明が順番に点いた。
突き当たりで小型昇降機の扉が開いた。
オリヴィアが乗り込む。
行き先表示はなかった。
本人認証だけが処理された。
【DESTINATION:RESTRICTED TRANSFER DECK】
昇降機が下降した。
[統律特命局]本部の通常階層が上へ離れていく。
到着音は鳴らなかった。
扉の向こうには細長い乗降区画があった。
一台の白銀色の浮遊車両が待機している。
窓は外側から内部を確認できない濃度まで暗くなっていた。
車体側面に所属表示はない。
オリヴィアが近づくと側面扉が開いた。
【〈Halo Limousine〉】
【PERSONAL AUTHORIZATION:CONFIRMED】
【PASSENGER:OLIVIA O'CONNELL】
オリヴィアは乗り込んだ。
扉が閉じる。
外部の音が消えた。
向かい側の壁面に細い光が走った。
収納部が開く。
内部に一本の杖が固定されていた。
銀色の環状部。
黒い芯材。
握りに合わせて調整された細いグリップ。
オリヴィアはそれを取り出した。
【〈A.R.K. Conductor改〉】
【PERSONAL CONFIGURATION:OLIVIA O'CONNELL】
【AUTHENTICATION:START】
環状部へ青白い光が点いた。
【BIOMETRIC MATCH:CONFIRMED】
【ADMINISTRATIVE LINK:ACTIVE】
通常の[世界政府]端末には接続されていない。
公開装備一覧にも表示されない。
オリヴィアは杖を膝の横へ置いた。
別の収納部が開いた。
白銀色の環状端末が静かに浮上した。
中央に小さな球状機構が収まっている。
【〈Aurea Unit〉】
【PERSONAL SUPPORT MODE:ACTIVE】
環状端末はオリヴィアの右側で停止した。
携行端末から監査記録を受け取る。
【AUDIT DATA:SYNCHRONIZING】
【SPROCKET:PRIORITY 01】
【VAREN:REFERENCE PRESERVATION】
【WATARU WATANABE:RECOVERED】
【LEGACY AUDIT NODES:PENDING】
オリヴィアは転送状態だけを確認した。
「不足は?」
Aurea Unitの表示が変わった。
【LOCAL ARCHIVE DATA:UNAVAILABLE】
【ONSITE AUTHENTICATION:REQUIRED】
【MISSION DATA:SUFFICIENT FOR TRANSIT】
「ならいいわ」
車両が動き始めた。
加速感はほとんどなかった。
窓の外を隔壁が流れていく。
一般交通網とは接続していない通路だった。
[統律特命局]本部の深部を横切り、海上ドーム外縁部へ向かっている。
オリヴィアは携行端末を開いた。
【TOKYO CITY】
【CENTRAL LOGISTICS CENTER】
【ONSITE AUDIT:AUTHORIZED】
北部物流区画ではスプロケットたちの位置が再び途切れていた。
【SUBJECT:SPROCKET】
【CURRENT POSITION:UNRESOLVED】
【ESTIMATED DESTINATION:MEDICAL SATELLITE DOME】
目的地は変わっていない。
[ネクス・ハウンズ]も移動を続けている。
【UNIT:[ネクス・ハウンズ]】
【INTERCEPTION POINT:EMERGENCY WING 06】
【STATUS:REPOSITIONING】
オリヴィアは画面を閉じなかった。
Haloが減速した。
前方の隔壁が左右へ開く。
広い格納区画が現れた。
中央に白銀色の航空機が待機していた。
通常の政府輸送機より低い機体。
左右へ広がる可変翼。
機体下部には垂直離着陸用の推進部が収納されている。
外装には最低限のA.R.K.識別だけが残されていた。
公開された[統律特命局]の装備一覧には存在しない機体だった。
Haloが機体横で停止した。
【PERSONAL AIRFRAME:STANDBY】
【DESTINATION:TOKYO CITY】
【FLIGHT AUTHORIZATION:VALID】
扉が開いた。
オリヴィアはA.R.K. Conductorを持って降りた。
Aurea Unitが後方へ続く。
格納区画に待機していた職員は近づかなかった。
本人認証が済んでいる。
搭乗手続きも必要なかった。
機体側面の扉が開いた。
【OLIVIA O'CONNELL】
【ACCESS:CONFIRMED】
オリヴィアは機内へ入った。
Aurea Unitも後に続いた。
扉が閉じる。
機内前方の表示が起動した。
【DEPARTURE:SEA DOME CITY】
【DESTINATION:TOKYO CITY】
【ROUTE:RESTRICTED GOVERNMENT AIRSPACE】
【PUBLIC FLIGHT RECORD:NONE】
オリヴィアは座席へ腰を下ろした。
A.R.K. Conductorを右側の固定部へ置く。
Aurea Unitが正面へ移動した。
トーキョー・シティの監査情報が空中表示へ展開される。
中央物流センター。
旧排水区画。
北部物流区画。
医療衛星ドーム。
現在図から消えた複数の旧経路。
その中央にスプロケットの監査記録が残っていた。
【SUBJECT:SPROCKET】
【RECOVERY PRIORITY:01】
【ABILITY RISK:HIGH】
【HOSTILE USE:NOT CONFIRMED】
【ADDITIONAL BASIS:UNRESOLVED】
オリヴィアは最後の項目を見た。
Mr.Xは答えを渡さなかった。
遠隔監査でも答えは出なかった。
旧監査領域は現地認証を要求している。
なら行けばいい。
機体が静かに浮上した。
格納区画の天井が開く。
海上ドーム都市の人工照明が下へ離れた。
【FLIGHT STATUS:AIRBORNE】
【DESTINATION:TOKYO CITY】
【ETA:CALCULATING】
オリヴィアはトーキョー・シティの地図を拡大した。
これまで情報だけがそこから届いていた。
今度は自分がそこへ向かっていた。



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