作品データ
あらすじ
とあるトルコの老人ホームに暮らす一人老女、ギュルセレンにYouTuberがインタビューの動画を撮っていた。
ギュルセレンは並外れた知能で四桁の暗算を一瞬に解けるが、ずっと周りから理解されず孤独な人生を歩いていた。
トルコの政治と社会が激動する時代を生き抜き、様々な出会いと別れを経たギュルセレンがアルバムを片手に語り始めるのだった。
登場人物&出演者
・ギュルセレン(演:エジェム・エルケク)
本作が長編映画デビュー作となります。
主人公。人にあまり興味がなく、天才的な数学能力を持っている。名前の意味は“バラを手向ける人”だという。
学校では目立つような存在で、論理的に先生を追い込んだせいで学校初の退学処分となる。
両親からお見合い結婚をさせられそうになるが、相手の悪い部分を浮き彫りにして回避した。
父親の事業が失敗して亡くなると、人生が傾いて親しい人たちも去って孤独になっていく。
最後は実家をホテルに変えるが、母親が亡くなるが、YouTubeで有名人になって報われた。
・ナジフ(演:エンギン・アルカン)
代表作に『ラン・フォー・マネー』、『Illet』があります。
ギュルセレンの父親。グミを販売する会社を立ち上げるが、未だに一個も売れずに経済難に陥っている。
必ずグミが求められる時代が来ると信じているが、妻から経済的な文句を毎回言われている。
ギュルセレンが学校を退学させられるが、怒るどころか励まして、帰りにアイスを買った。
母親に怒られるギュルセレンを誰よりも理解し、結婚を拒否した彼女の意見に賛同した。
最後は塩の事業で失敗して破産し、気力がなくなって、ギュルセレンに別れを告げて逝く。
・イクラル(演:デヴリム・ヤークト)
代表作に『Luks Otel』、『家族のあいだで』などがあります。
ギュルセレンの母親でナジフの妻。経済難に陥っている状況でグミの言葉を毛嫌いし、誰よりも世間体を気にする。
夫が必死にグミを売りたいロマンを理解できず、経済難について常に文句を言っている。
ギュルセレンが結婚を拒否して一週間寝込み、夫が塩の事業で失敗して家を失う事を恐れた。
結婚したはずのギュルセレンが離婚すると、ホタルを見たせいだと長年に渡って小言を言う。
最後はギュルセレンにテレビを壊され、不満を漏らした彼女の話しを聞きながら老衰で逝く。
・イゼット(演:メルヴェ・ディズダル)
代表作に『Bir ses böler geceyi』、『Eltilerin Savasi』などがあります。
ギュルセレンの叔母でナジフの妹。ナジフの家で暮らしているが、なぜか独身のままでいる。
ギュルセレンが生まれた時からナジフの家にいて、激しい義姉を止める役を担っている。
何度も警察に捕まっていたハズィムに辟易し、少し変わったギュルセレンをフォローする。
結婚を拒否したギュルセレンのせいでイクラルが倒れると、その面倒をずっと見ていた。
最後はお見合い結婚を成功させると、長年住んでいた家を惜しみながら出て行った。
・ハズィム(演:ウシャン・チャクル)
代表作に『Evlat』、『When I’m Done Dying』があります。
ナジフの弟。熱烈な共産党の支持者。ソ連のスターリンに憧れ、トルコの情勢について不満を持っている。
トルコの革命をずっと信じていて、集会に向かおうとしたところで警察に捕まってしまう。
ギュルセレンが大きくなってから出所するが、すぐに共産党員として警察に再び捕まった。
年老いてから出所して家に戻ると、共産党が優勢になって偽名で本を執筆して成功する。
最後はトルコで軍事クーデターが起きると、危険と感じてスウェーデンに亡命を果たした。
・キュルシャット(演:ビュレント・チョラク)
代表作に『Kanunsuzlar』、『Genis Aile』シリーズなどがあります。
イクラルの弟。敬虔なムスリム。トルコに対して常に批判的なハズィムと口論を繰り広げる。
義兄のナジフからグミの店番を任されるが、一度も売った事がないとハッキリ言っていた。
軍事クーデターが起きて共産党員が逃げ出すと、ハズィムを鼻で笑って出る彼を笑っていた。
警察がやって来ると、なぜかムスリムなのに捕まってしまい、出所後に無口となっていた。
最後は家にいられないと悟って、神を探す旅に出ると称して出て行って二度と戻らなかった。
・デュンダル(演:アフメット・リファット・サンガー)
代表作に『スリー・モンキーズ』、『読まれなかった小説』などがあります。
離婚して実家に戻っていたギュルセレンが道端で出会った男性。ギュルセレンが落としたオレンジを拾った。
ギュルセレンから一目惚れされたと話しをされると、満更でもないような笑顔を見せた。
その後、ギュルセレンの驚異的な計算能力に何度も感心して、そのまま恋人となっていた。
実は数日後に兵役を控えていて、タイミングの悪い出会い方にギュルセレンと悔やんだ。
最後は戦場に出てギュルセレンに5通の手紙を送るが、銃弾を食らった戦死を遂げてしまう。
・セダト(演:アタカン・チェリク)
代表作に『Organize Isler: Sazan Sarmali』などがあります。
トルコで活躍しているYouTuber。ギュルセレンの天才的な計算能力を聞いてインタビューにやって来る。
当初はなんの面白味もない老人ホームでの取材に気乗りせず、さっさと終わらせようとする。
独特な感性と人生を歩んできたギュルセレンの話しに引き寄せられ、興味を持ち始めた。
インタビュー動画が世界で大ヒットし、有名人となったギュルセレンと再び会っていた。
最後は生き甲斐のなかったギュルセレンにしか見えないホタルに笑う彼女に微笑んでいた。
感想
[個人的な評価]
本作はNetflixで独占配信された作品となります。
非常に珍しいトルコの映画となりますが、多分、今回は初めての鑑賞となります。
まず、トルコのイメージでは世界三大料理とトルコアイス程度で、他はかなり曖昧です。
アラブ圏と同じような文化だと思ったら、イスラム教でありながら緩い宗教観が興味深い。
トルコはもっと自由な国な印象を持ちましたが、時代が戦前という事で主人公のギュルセレンが浮いています。
今の時代ではギュルセレンのような特技を持っている人間は人気者になるが、当時の情勢では変人という認識になる。
そのせいでギュルセレン自身もマトモな人生を送れないと分かっていて、そのせいで反抗的な態度に出てしまう。
世間体を意識する母親と違って、ギュルセレンの行動に理解を示す父親との絆を丁寧に描写されていました。
中盤で父親が亡くなって退場してしまうが、丁寧に二人のやり取りを描いたおかげで感動的な別れ際になっていたと思います。
その後、上手く人生が回らないギュルセレンの時代を間違えて生まれた感覚がしっかりと伝わってきます。
理解者たちが次々と家を出て行って、結局は一番変人扱いする母親と長年暮らす事になるギュルセレンもまだ報われない。
ついに母親が亡くなって一人ぼっちになって、そこで現実を知ったギュルセレンの悲しさは響いてきました。
しかし、YouTubeの動画で驚異的な計算能力を人気者となって、ようやく世間に認められた彼女はそれで良かったのかと考えさせられる。
確かに報われた部分があるけど、ギュルセレンが本当に求めていたモノは家族だったのかもしれないだろう。
初めてと思われるトルコ映画ですが、イスラム教の国とは思えない自由さがあって、今後は注目したいと思わせる作品でした。
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